現役時代は走攻守そろった名二塁手としてファンを魅了し、埼玉西武監督就任後はリーグ連覇を成し遂げた辻発彦さん。旧知の仲である当HP編集長・二宮清純が、その野球観に迫る。

 

(対談は4月下旬に収録)

 

二宮清純: 3月に行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では解説を務められていました。

辻発彦: 見どころが多く、面白い大会でしたね。

 

二宮: すべての試合が素晴らしかったですが、中でも準決勝・メキシコ戦のサヨナラ勝ちは劇的でしたね。9回の攻防もしびれましたが、私は0‐3で負けていた7回に、吉田正尚選手(ボストン・レッドソックス)が放った3ランホームランが強く印象に残っています。

: 芸術的な一打でしたね。私は、ずっと彼を日本球界ナンバーワンのバッターだと思っていました。ボール球は振らないし、ここぞという時の長打力もすごい。

 

二宮: その吉田選手をはじめ、今回のWBCでは多くの日本人選手が活躍しました。特に辻さんの印象に残った選手は?

: MVPに輝いた大谷翔平選手(ロサンゼルス・エンゼルス)はもちろんですが、ラーズ・ヌートバー選手(セントルイス・カージナルス)と近藤健介選手(福岡ソフトバンクホークス)の1・2番コンビの活躍は大きかったと思います。中でもヌートバー選手はキャラも明るいし、何より選球眼とタイミングの取り方がすごくいい。きっと日本でも通用すると思います。

 

二宮: ヌートバー選手は、初戦となる中国戦で初球を振り抜いてセンター前に運びました。日本人選手だと、初球を見送っていたかもしれない。

: そうですね。ましてや、国際大会初戦の初回・先頭バッターですから。でも、あのバッティングでチーム全体に勢いが生まれました。

 

二宮: 守備の要である源田壮亮選手(埼玉西武ライオンズ)の存在も大きかったと思います。源田選手は辻さんが監督1年目に見いだした選手です。2戦目の韓国戦で右手小指を骨折した時は、何かやり取りをされたのですか。

 試合翌日、練習中に声を掛けたら「折れていました」って苦笑いしていました。でも、「そこそこ投げられるので大丈夫」と言うんです。普通は指をけがすれば、ボールがすっぽ抜けたりするものですが、ごまかしながらもしっかり投げられるあたり、彼の器用さがなせる業でしょう。

 

二宮: 準々決勝のイタリア戦からスタメンに戻り、結局、ノーエラーでしたからね。見事としか言いようがない。

: 最初、代表メンバーを見た時に、守りのスペシャリストがいないことが気がかりでした。だから源田には、「けがだけは気をつけろよ」と話しました。

 

二宮: 辻さんから見て、源田選手の守備の素晴らしいところは?

: 「間」ですね。動きながらボールをキャッチするのではなく、キャッチまで一瞬の間が作れる。間が作れるということは、余裕があるということです。それによって、今度はスローイングが安定する。ショートをやる以上、スローイングの安定性がなかったら監督は怖くて使えません。

 

二宮: 元東京ヤクルトスワローズの名手・宮本慎也さんも、「一番大事なのはスローイングだ」と言っていました。

: スローイングをしやすい場所でキャッチすることで、キャッチとスローイングがワンステップで終わります。今はスライディングしながらキャッチする選手が多くなっていますが、私は違うと思う。だから源田にも、「子どもたちも見ているんだから、スライディングはしないでくれ」と、よく言っていました。

 

二宮: 源田選手は、今の日本の遊撃手では一番うまいですか。

: うまいでしょうね。安心して見ていられます。それこそエラーしても、「源田でダメなら仕方ない」と言われる域に達しています。

 

二宮: 今シーズンが始まって約1カ月経ちましたが、村上宗隆選手(ヤクルト)の調子がなかなか上がりません。山川穂高選手(西武)や山田哲人選手(ヤクルト)も一時離脱しました。やはりWBC出場の影響があるのでしょうか。

: 好調な選手もいるので一概には言えませんが、本来キャンプで徹底的に練習して体を作っていく時期に、実戦に合わせて仕上げなければならないのは大変だと思います。実際、近藤選手に話を聞く機会があったのですが、疲れが残っているというか、体の“芯”がないような感じらしいです。短期間で激しい試合を約10試合やっているわけですから、体の回復具合がいまひとつなのかもしれません。

 

二宮: 渡米も含めて移動もありましたし、何より精神的なプレッシャーは相当なものがあったでしょう。

: だからこそ、大谷選手のすごさを感じます。あれだけWBCで打って、投げて、その影響を微塵も感じさないプレーをメジャーリーグでしている。本当に素晴らしいです。

 

(詳しいインタビューは6月1日発売の『第三文明』2023年7月号をぜひご覧ください)

 

辻発彦(つじ・はつひこ)プロフィール>

1958年10月24日、佐賀県小城市出身。大の野球ファンだった父の影響で小学1年から野球を始める。佐賀県立佐賀東高校卒業後、日本通運を経て、1983年にドラフト2位で指名され、西武ライオンズに入団。85年に二塁手のレギュラーに定着し、守備の名手として西武黄金期を支えた。96年にヤクルトスワローズへ移籍後、99年に現役引退。主なタイトルは首位打者(93年)、ベストナイン(86年、89年、91年~93年)、ゴールデングラブ賞(86年、88年~94年)など。引退後はヤクルト、横浜ベイスターズ、日本代表、中日ドラゴンズで2軍監督やコーチを歴任。17年から西武の監督を務め、18~19年にリーグ連覇を達成。22年シーズン終了後に退任し、現在は野球解説者として活躍している。通算1562試合、1462安打、56本塁打、510打点、242盗塁、打率.282。


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