(写真:2008年に新校舎となった東中学校)

 前回(第152回「体育館より愛を込めて!」)、体育館は、様々な禁止事項を設けるよりも、利用する人に愛を込めて、接していけたら、という思いを書きました。

 

 コラム掲載後、反響があり、ご賛同のメッセージをいただきました。

 体育館の張り紙については、「こんなのもあるよ」という意見も。

 

●ゴミ、吸いがら等は各自持ち帰ること。
●トイレは清潔に利用すること。

 こうやって、わざわざ書かれると、げんなりするし、そんなことまで言わなきゃできない人がいるのかと思うとがっかりする、と。

 

●その他、トレーニングルーム内にある注意事項を守ってご利用ください。

●器具・備品の取り扱いには十分注意してください。

●ドアに手指を挟み込まないようご注意ください。また、ドアを勢いよく開閉しないでください。

 免責のためとはいえ、ここまで注意書きが必要かと思わされます。

 

 利用する人が、施設や道具を大事にし、他の利用者への思いやりを持ってすれば、こういった張り紙は不要。ただ現実はそううまくはいかないとうことも理解できますが……。

 

(写真:教室へ移動する生徒たち)

 先日、ご縁をいただきユニークな取り組みで有名な新潟県の長岡市立東中学校を訪ねました。

 この学校では「教科教室型」方式を採用しています。例えば国語の授業では生徒たちが国語教室に行って授業を受けます。個人の持ち物は一人一つの鍵付きロッカーに収納する。子どもたちは、毎時限、各教科の教室に移動するうちに、自然と学習に向かう気持ちが湧くようになります。

 

 このほかにも校舎のありとあらゆるところに、工夫とチャレンジがふんだんに施されています。

 2003年に始まった校舎の建て替え計画から、教員、行政、計画者、設計者が研究・協議を重ね、地域の人たちとワークショップを10回も開催する。教育のあり方をみんなで実に熱心に議論し、つくられました。

 

資料提供 株式会社教育環境研究所(長岡市立東中学校の基本計画を担当)

 

(写真:廊下をはじめ、きれいな校舎)

  築15年とは思えない、きれいな校舎に驚きました。生徒たちが毎日よく掃除をしている証左です。掃除がきちんとできることは、生活態度全般を表しているに他ありません。

 廊下で出会った女子生徒に聞きました。

「学校はどうですか?」

「楽しいです」

「校舎はどうですか?」

「気持ちがいいです」

 す~っと、さわやかな風が吹きました。自らの学び舎を「気持ちがいい」と表現できる中学生がいるこの学校に心から敬意を表します。

 まさに生徒が校舎を育て、校舎が生徒を育てることを体現しています。

 

 体育館に話を戻しましょう。

 わざわざ禁止事項を列挙するのではなく、管理者が体育館を愛していることを表現してはどうでしょうか。安全できれいな状態を保っておくのです。そして禁止より、解禁・許可・奨励。すると、大切に、他者を思いやって利用する人に育てられる愛のあふれる体育館に。中学生がしていることを、自分の地元の体育館で、みんなで実現できたらと思うのです。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。第1期スポーツ庁スポーツ審議会委員、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問を務めた。2022年10月、石川県成長戦略会議委員に就任。同11月に馳浩スペシャルアドバイザーに就いた。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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