サッカーの代表監督は、スター選手の扱いに常に頭を悩ませている。強豪国の監督であれば、なおさらだ。


 ドイツW杯後にイタリア代表監督に就任したロベルト・ドナドーニが苦境に立たされている。ドナドーニ率いるイタリアは2008欧州選手権予選で「死の組」と言われるB組に属している。ドイツW杯のファイナリストであるフランス、同大会で初出場ながらベスト8に進出したウクライナ、古豪スコットランド――。決勝トーナメントへのチケットはわずか2枚。

 4月23日時点で、イタリアは同組の4位。予選はまだ約半分の日程を残しているとはいえ、決勝トーナメントへの道のりは険しい。前任者のマルチェロ・リッピは、チームを06年ドイツW杯で24年ぶりの優勝に導いた。それもあってドナドーニに向けられる視線はことの他厳しい。

 ドナドーニの最大の悩みのタネは、MFフランチェスコ・トッティの優柔不断。トッティは、フィジカルとテクニックを兼ね備えたアタッカーで02年日韓W杯からアズーリの10番を任されてきた。06年ドイツW杯にも主力選手として出場したが、大会直前の左足首骨折でコンディションを落としていたため、大会後に代表を辞退して07年に復帰する意向を示していた。

 ところが、気が変わったのか、07年に入っても代表に戻る様子を見せない。2月末には次のようなコメントを口にした。
「ドイツW杯優勝で代表へのモチベーションが下がってしまった。ドイツW杯前の故障が理由で、左足首にはボルトが埋まっている。こんな状況で代表の試合を含めたスケジュールをこなすことは難しい。今は欧州チャンピオンズリーグで優勝したいと思う」

 今季は所属クラブのローマが好調なこともあり、シーズンが終わるまでは、代表に戻る気配はなさそうだ。ドナドーニはトッティに再三話し合いを持ちかけたが、前向きな返事は得られなかった模様。

 このような代表軽視ともとれるトッティの態度に不信感を募らせる選手は少なくない。06年9月には、当時ラツィオに所属していたDFマッシモ・オッド(現ミラン)がトッティをこう批判した。
「代表に呼ばれれば、全力を尽くして試合に臨むべきだ。自分の好きな時に代表に復帰するというフランチェスコのやり方は周囲への配慮に欠けている」
 オッドの発言は正論だ。コンディションの問題はあるにせよ、トッティの煮え切らない態度に振り回される側はたまったものではない。

 サッカー界において代表召集を拒否する選手は少なくない。例を挙げれば、“悪童”として名高いスウェーデン代表FWズラタン・イブラヒモビッチ。彼は同国代表監督のラルス・ラガーベックとの確執を理由として、2月7日のテストマッチ・エジプト代表戦の招集を拒否した。同じ理由で06年10月に行われた2008欧州選手権予選の召集も拒んでいる。

 イブラヒモビッチもトッティと同じく、一人で決定的な仕事ができる選手だ。うまく扱えば勝利を運んできてくれるが、一旦ヘソを曲げてしまえば、簡単には収まらない。結果的に2人は和解したようだが、確執はいつ再燃するかわからない。

 スター選手は呼ぶ時も難しいが、外す時も難しい。
「たとえセリエBのクラブに所属していても、代表に呼んでくれると約束したじゃないか」
 フランス代表監督レイモンド・ドメネクに対する不信感を口にしたのは、同国代表FWダヴィド・トレゼゲだ。

 06年5月に発覚したカルチョ・スキャンダルでセリエBに降格したイタリアの名門ユベントスに所属しているトレゼゲは、2008欧州選手権予選B組のリトアニア戦(3月24日)とテストマッチ・オーストリア戦(28日)でメンバーから漏れた。周知のようにトレゼゲはエースのFWティエリ・アンリとの相性がよくない。アンリとトレゼゲのどちらかを選べといわれたら、そりゃアンリだろう。

 スター選手はプライドが人一倍高い。「セリエBのユベントスでも召集する」と言っておきながら、落選させ「(ユベントスが)セリエAに戻れるようにクラブに専念してほしい」ではトレゼゲも収まらない。ドメネクへの不信感は一気に頂点に達してしまった。フランスはイタリアと同様に強豪が揃うB組に属しているが、この調子では先が思いやられる。

 話をイタリアに戻そう。ドナドーニは何もトッティひとりだけにこだわっているわけではない。FWアレッサンドロ・デルピエロやMFダニエレ・デ・ロッシなどトッティの代わりになりそうな選手はいる。

 だが、皮肉なことに現在のトッティは余人を持って代えがたい存在なのだ。4月8日時点、セリエAでは並み居るストライカーを抑えて、18ゴールで得点ランキングトップに立っている。欧州チャンピオンズリーグでも5ゴールを挙げて、クラブを史上初のベスト8に導いた。

 まさしく手のつけられない状態なのだ。今のトッティが代表に加入すれば、チーム力が大幅に向上することは目に見えている。救世主が現れるとしたら、それは彼以外には考えられない。

「(トッティは)他の選手と同様にコンディションがよければ、代表に入ることができる」
 ドナドーニはあくまで平静を装っているが、本音の部分ではトッティの代表復帰を待ち望んでいるはず。なにしろ、自らのクビがかかっているのだから。ドナドーニはいつ、どんなかたちで「ローマの王子様」にプロポーズの言葉をおくるのか……。

(この原稿は07年6月号『FUSO』に掲載されました)


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