第154回 暑い夏に蘇るSTAND設立の想い
2023年、暑い夏。もう20年経つんだと、この事業を始めるきっかけとなった日のことを思い出します。
2003年の夏、暑い日が続く中、初めてのパラスポーツ大会ウェブ生配信の準備をしていました。まだSTAND設立前のことです。
この年の電動車椅子サッカー北陸大会は金沢で行われ、「金沢ベストブラザーズ」が優勝、大阪で開催される全国大会に駒を進めました。
ところが、医師の指導で遠征できない選手が……。「なんとか彼に試合を観てほしい」という一心で、当時まだなかったウェブでの生中継を企画しました。
今から20年前、携帯電話にテレビ電話機能が搭載されたばかり。NTTドコモさんの協力を得て、準備を進めました。携帯電話のテレビ電話機能を使用し、専用ウェブサイトを開設しました。実験をすると、映像はカクカク、コマ落としのようでした。
NTTドコモさんの技術部門の方は、「これはよくない。性能がこの程度と思われるのでは……」と危惧されました。が、「とにかくやってみよう!」と。ご英断に頭が下がりました。
2003年秋、全国から勝ち上がった16チームが大阪に集結しました。
不安でいっぱいの初めての中継開始。体育館ロビーでモニター展示しているスタッフから「映像がカクカクです!」と連絡が届きます。もちろん、想定通りです。
一方、遠征に参加できなかった選手。金沢の自宅で観戦している様子は、といえば。
「よし、そこだ! 行け!」
「あ~、いつものミスだ」
夢中でチームメイトの動きを見守ります。
選手の自宅で立ち会ったSTANDのスタッフは、こう言っていました。
「彼は終始興奮していた。まるでベンチに入っているようだった」
その様子を聞いた技術スタッフの方が「杞憂に終わった。選手にはゲームが見えていた」。それまでの苦悩の表情から、安堵のそれへと変わりました。
大会から数日後、思いもよらないことが起きました。
横浜のチームのキャプテンからメールが届いたのです。
「来年も中継ありますよね。うわさではあるって聞きました。地元居残り組(笑)から、『ぜひウチのチームの試合もお願いします』と言われています」
えええ~~~! カズこと三浦知良選手からメッセージをいただいたような感激、「うわさ」をしてもらった感動を今でも覚えています。
さらには、日本電動車椅子サッカー協会会長(当時)からは「ぜひ、できれば毎年、お願いします」というお言葉を。
わ~~~! Jリーグ初代チェアマンの川淵(三郎)さんから「公式の」依頼をいただいたような感激でした。
期待してくれる人がいる――。それに応えずしてどうすると、中継を継続するため、その拠り所として、STANDを設立しました。
一人の選手のためにと工夫したことが、他の人にも役に立つ。それは、もしかして多くの人にとっても有効なのではないか。そしてイノベーションとなっていくのかもしれない。
創業時に胸を弾ませて、そう考えたことを鮮明に思い出します。
20年前の夏、始めてよかった。心からそう思える日が来るように。さあ、気合入れていきましょう。
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>