第48回 長打のある1番を置けた慶應高の強さ

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 第105回全国高等学校野球選手権は慶應(神奈川)の107年ぶり2度目の優勝で幕を閉じました。「エンジョイベースボール」をコンセプトにした彼らが旋風を巻き起こしましたし、準優勝に終わった仙台育英(宮城)の姿勢も潔く立派でした。

 

 エンジョイベースボール

 

 慶應は「エンジョイベースボール」を謳っていましたが、苦しい場面だからと言って口を真一文字に結んでかたくなっていても、肩に力は入り過ぎるし、どんどん体も硬直してしまう。これではいいプレーはできないから「この緊張感さえも楽しもう」ということだったんでしょう。彼らはあの方が力を発揮できるんでしょうね。雰囲気も良かったように映りました。

 

 仙台育英の1番打者・橋本航河も素晴らしいバッティングの持ち主ですが、この日は打たせてもらえませんでした。一方で、慶應の丸田湊斗は夏の大会では史上初となる先頭打者アーチを放ちました。プレッシャーのかかる場面での一発は「凄い」としか言いようがない。

 

 長打力のあるバッターを1番に据えられるとは、高校野球も変わってきたなぁと感じます。高校野球の1番像といえば、とにかく足のある打者がセーフティーバントで出塁し、バントのうまい2番が送って、3、4、5番が還すというのがセオリーでした。しかし、1番に長打が打てるバッターがいると戦術の幅が広がります。下位打線から攻撃開始だったとしてもひとり、ふたりが出塁して1番に回せば複数得点のチャンスになります。それを可能にできた慶應は1つ抜けていました。

 

 他の学校に目を移すと日大三高の森山太陽と富山商の竹田哩久のショートの選手の守備も光っておりました。これからが楽しみな逸材たちです。私がコーチを務める立教新座高も新チームで始動しています。これはすごい縁ですが9月に仙台育英と、10月の末に慶應と試合を行います。全てを吸収するつもりで行ってきます。10月には秋季関東大会もあります。そこで埼玉県代表になれれば、もしかしたらそこでも慶應と対戦するかもしれません。選手たちの奮起に期待しております。

 

 四球を評価する岡田監督

 

 さて、プロ野球に目を移すと阪神が既にマジックを点灯させました。岡田彰布監督が復帰してから強さを見せています。65歳と高齢ですが若い選手たちが生き生きとしています。かつて二軍監督を務めた平田勝男コーチが明るく振る舞っているのが大きいのではないでしょうか。

 

 岡田監督は本当に1点を大事にします。手堅くバントもするなど、堅実な野球です。大山悠輔らホームランバッターもいますが、基本は全員で1点を取りに行き、ピッチャーを含めた全員で守るという姿勢を徹底しています。中野拓夢と木浪聖也の二遊間もいい働きをしています。このコンビは派手さこそないですが、地道な働きは玄人好みでしょうか。ファインプレーこそ多くないですが競った展開をモノにできるチームは決まって二遊間がしっかりしています。中野のコンバートも奏功しています。

 

 それから、岡田監督は今季開幕前に四球の査定アップを球団に頼んだそうです。24日時点で四球総数は394。12球団トップです。岡田監督は「接戦での四球は1本のヒットに値する」というほど四球を評価しています。

 

 私も四球には価値があると思っています。1球目をカーンと綺麗にヒットを打つのも良いですが、相手投手に球数を投げさせたのちの四球は相手に心身ともにダメージを与えるのです。こういう細かいところを大事にしているから、今季の阪神は強いんだと思います。

 

 

<鈴木康友(すずき・やすとも)プロフィール>
1959年7月6日、奈良県出身。天理高では大型ショートとして鳴らし甲子園に4度出場。早稲田大学への進学が内定していたが、77年秋のドラフトで巨人が5位指名。長嶋茂雄監督(当時)が直接、説得に乗り出し、その熱意に打たれてプロ入りを決意。5年目の82年から一軍に定着し、内野のユーティリティプレーヤーとして活躍。その後、西武、中日に移籍し、90年シーズン途中に再び西武へ。92年に現役引退。その後、西武、巨人、オリックスのコーチに就任。05年より茨城ゴールデンゴールズでコーチ、07年、BCリーグ・富山の初代監督を務めた。10年~11年は埼玉西武、12年~14年は東北楽天、15年~16年は福岡ソフトバンクでコーチ。17年、四国アイランドリーグplus徳島の野手コーチを務め、独立リーグ日本一に輝いた。同年夏、血液の難病・骨髄異形成症候群と診断され、徳島を退団後に治療に専念。臍帯血移植などを受け、経過も良好。18年秋に医師から仕事の再開を許可された。18年10月から立教新座高(埼玉)の野球部臨時コーチを務める。NPBでは選手、コーチとしてリーグ優勝14回、日本一に7度輝いている。19年6月に開始したTwitter(@Yasutomo_76)も絶賛つぶやき中。2021年4月、東京五輪2020の聖火ランナー(奈良)を務め、無事"完走"を果たした。

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