今月14日にセ・リーグは阪神2005年以来18年ぶり6度目、パ・リーグは20日にオリックスが3年連続15回目(阪急時代を含む)のリーグ優勝を決めました。両チームとも2位以下を引き離し、ぶっち切りでペナントレースを駆け抜けました。今月は、「オーダー固定の阪神」と「日替わり打線のオリックス」の2つの軸で語りましょう。

 

 オーダー固定のメリット

 

 岡田彰布監督は15年ぶりに阪神に復帰した1年目に見事チームを優勝へと導きました。今季の采配は見事でした。打つ手が全て「理に適ってるわ~」と感心させられっぱなし。

 

 今季の阪神のオーダーはほぼ固定でした。オーダー固定のチームが唯一かえるのは外野の一角(ライトかレフト)とピッチャーとの相性などに応じてキャッチャーを変更するくらいでしょうか。実際、今季の阪神も例外に漏れることなくそうでした。

 

 7月下旬まではライトのポジションが流動的でした。見てみると森下翔太、ヨハン・ミエセス、島田海吏、井上広大、前川右京などがライトのポジションを競っています。7月下旬以降は森下をメインに据えて戦いました。キャッチャーは梅野隆太郎が戦線離脱するまで彼が正捕手。谷間で坂本誠志郎がマスクを被っていました。

 

 固定のメリットは主に2つあります。1つは自分の後ろの打者に対しての相手バッテリーの攻め方が読みやすい点と、自分の後ろを打つバッターの特徴が把握しやすい点にあります。

 

 まずは1つ目について。阪神の1番・近本光司か2番・中野拓夢が出塁したとしましょう。3番・森下、4番・大山悠輔、5番・佐藤輝明らに対し、相手バッテリーがどういう配球で攻めてくるのか読みやすくなる。特に近本、中野は頭も良い。“大山、佐藤にはフォーク系で攻めてくるケースが多い。ワンバウンドもあり得る”と塁上で配球を読めれば、自然と盗塁も増えるものです。

 

 続いて2つ目について。打線が固定だと、ネクストバッターの球質、軌道が段々とわかってくるんです。たとえば3番を打つ森下が出塁したとしましょう。4番はずっと大山です。大山がカーンと打った瞬間、森下は彼の打球のクセを把握しています。これが外野手の頭を越えるのか、それとも捕られるのか――。判断の際、非常に役立つんです。一瞬の判断が1つでも先の塁を狙えるか、否かをわけます。打順がコロコロ変わるとどうでしょう? 同じチームメイトとはいえ、そこまで細部にわたって把握はできないでしょう。岡田阪神は固定の小さなメリットを生かし、大差でセ・リーグをぶっち切ったという見方もできると思います。

 

 そうそう、これは私が楽天で守備走塁コーチを務めていた時のことです。4番や5番打者がフリーバッティングをやっている時、走塁練習でセカンドランナー役に、当時6番や7番を担っている選手がいました。これを見て私はいかん、と思いました。だって、4番が打つ時に6番や7番打者がランナーとして塁上に残っていることって……ありますか? 私は試合のための練習をしてもらいたい。「4番や5番がフリーバッティングをやる時の走塁練習では1、2、3番打者がランナー役をやるように。試合で起こり得るシチュエーションで練習をやってほしい」と指示をしました。自分の後ろのバッターの“打球感”を把握すれば、走塁時でかなり有利になります。試合前の練習で先発や打順が相手にバレますが、さほど関係ありません。だって、こっちはどうせ年間通じて「固定」なんですから(笑)。

 

 日替わり打線は二軍を把握してこそ

 

 一方の中嶋聡監督率いるオリックス。「日替わり打線」と報じられることもしばしばです。2021年=(143試合で)130通りのオーダー、2022年=141通り、2023年は130試合時点で122通りのオーダーで戦っています。

 

 私見を述べれば、日替わり打線は二軍監督経験者が使いやすいのかなと思います。過去、自分の目で見て、育てた選手の特徴は把握していて当たり前です。その証拠に中嶋監督は一軍と二軍の野手を頻繁に入れ替えます。

 

 中嶋監督が二軍からの昇格であることに加え、彼が仰木彬さんの薫陶を受けていることも影響しているのではないでしょうか。仰木さんが監督を務めていた時代、試合前のシートノックが始まっているにも関わらずその段階で「僕、先発なのかまだわからないですけど」とこぼしている選手もいたくらいです。

 

 質の高い日替わり打線が組めるチームの特徴。それは打線の切れ目がないことでしょう。8番、9番打者も粘れる、選球眼が良いなど優れたバッターを配置できるため、一般的に認識されている“下位打線”がないんです。8、9番に配置されたバッターは1、2番的役割をこなせて、一巡して1番バッターが3番バッターに似た役割を果たします。DHを採用しているパ・リーグの性質も相まって、打線の抜け目、切れ目がない。これが可能になると、対戦相手はピッチャーを数多くつぎ込み、ブルペンは疲弊してしまう。

 

 まだペナントレースは10月上旬まで残っており、クライマックスシリーズもあります。少し気の早い話ではありますが、今年の日本シリーズは阪神とオリックスの関西ダービーもあり得るのではないでしょうか。そうなれば、両極端のチームの対戦になります。これはこれで見物なんじゃないでしょうか。

 

<鈴木康友(すずき・やすとも)プロフィール>
1959年7月6日、奈良県出身。天理高では大型ショートとして鳴らし甲子園に4度出場。早稲田大学への進学が内定していたが、77年秋のドラフトで巨人が5位指名。長嶋茂雄監督(当時)が直接、説得に乗り出し、その熱意に打たれてプロ入りを決意。5年目の82年から一軍に定着し、内野のユーティリティプレーヤーとして活躍。その後、西武、中日に移籍し、90年シーズン途中に再び西武へ。92年に現役引退。その後、西武、巨人、オリックスのコーチに就任。05年より茨城ゴールデンゴールズでコーチ、07年、BCリーグ・富山の初代監督を務めた。10年~11年は埼玉西武、12年~14年は東北楽天、15年~16年は福岡ソフトバンクでコーチ。17年、四国アイランドリーグplus徳島の野手コーチを務め、独立リーグ日本一に輝いた。同年夏、血液の難病・骨髄異形成症候群と診断され、徳島を退団後に治療に専念。臍帯血移植などを受け、経過も良好。18年秋に医師から仕事の再開を許可された。18年10月から立教新座高(埼玉)の野球部臨時コーチを務める。NPBでは選手、コーチとしてリーグ優勝14回、日本一に7度輝いている。19年6月に開始したTwitter(@Yasutomo_76)も絶賛つぶやき中。2021年4月、東京五輪2020の聖火ランナー(奈良)を務め、無事"完走"を果たした。


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