今年8月に行われた第18回全日本女子硬式クラブ野球選手権大会で準優勝した埼玉西武ライオンズ・レディース(埼玉西武LL)の數田彩乃は自らを「バッティングか守備かと言われると断然、守備ですね」と評す内野手だ。だが今季はバットでも存在感を発揮している。同大会では9番・セカンドで攻守にわたって貢献した。全5試合に出場し、打率は3割を超えた。

 

 今季のリポビタン杯争奪プレミアヴィーナスリーグでも打率3割(9月3日現在)をキープしている。「身体的には去年よりも良い感じですね」。実は彼女には2年間のブランクがある。大学卒業後、一般企業に就職し、野球からは離れていたのだ。2020年に現役復帰する頃には、当然筋力が落ちており、体重は5kg減っていたという。

「横の動き、瞬発力の衰えがすごかった。引退前のイメージでは捕れていたボールが捕れず、出ていた一歩目が出なかった」

 

 それでも心は折れなかった。數田は“まだできるだろう”と自分を奮い立たせ、練習に精を出す。小学1年で地元の久礼ジュニアーズで競技を始めてから「野球一色だった」という數田。ある意味、この2年間のインターバルは休息期間だったのかもしれない。「より野球を楽しめるようになりました」と現在の心境を口にする。復帰してからは3年の歳月が経った今も、“野球が楽しい”という感情は衰えない。

 

 プロ野球の埼玉西武ライオンズの名を冠し、同じデザインのユニフォームを身に纏うチームに所属しているとはいえ、數田たち埼玉西武LLの選手たちはプロではない。チームのスポンサーを務め、埼玉県加須市を中心とした関東近郊から全国への輸送業務を展開している盛運(せいうん)に勤めながら、日々トレーニングに励んでいる。7月下旬、主な練習拠点である加須きずなスタジアム(埼玉県加須市)を訪ねると、金属バットの乾いた打球音、ボールがグラブに収まる音、そして選手たちの明るい声が球場内に響いていた。

 

 磨きをかける日々

 

「ノックが楽しい」

 冒頭でも述べたように、數田は自身を守備の人と捉えている。「華麗なプレーできる方じゃない。ひとつひとつのアウトを確実に取るのが一番のアピールポイントかなと思っています」。そのために道具を大切にすることは忘れない。「グローブを磨くのが好きです」と語り、試合前のメンテナンスには2時間かけるという。チームの公式YouTubeチャンネルでもグローブ愛が垣間見える。

 

 彼女には野球選手として、もうひとつの顔がある。男女混成の5人制手打ち野球「ベースボール5(ファイブ)」の世界大会銀メダリスト。昨年、日本代表のメンバーとして第1回W杯で準優勝した。ベースボール5とは、2017年に世界野球ソフトボール連盟(WBSC)より野球・ソフトボール振興の一環として誕生した新アーバンスポーツである。元々はキューバで行われていた手打ち野球が発祥。26年にセネガルで行われるダカールユースオリンピックでは公式種目として採用されている。

 

 ゴムボールを使用し、守備側はグローブを装着しない。フィールドは18m×18m。野球より狭く、一瞬の判断ミスやわずかな捕球の遅れが命取りとなる。數田は競技を始めて約1年半だが、自身の成長にも繋がると考えている。

「ベースボール5をやっていると野球も上手くなると思います。特に守備。塁間(13m)が野球より狭いので、打球を待ったり、少しでもファンブルしたりするとセーフになってしまう。内野手にベースボール5はオススメです」

 

 野球一色の人生を再び歩んでいる彼女が白球を追いかけるようになったのは、小学1年の夏。久礼ジュニアーズに入団していた5歳上の兄の影響だった――。

 

(第2回につづく)

 

數田彩乃(かずた・あやの)プロフィール>

1995年5月19日、高知県高岡郡中土佐町生まれ。小学1年で野球を始める。久礼ジュニアーズ-久礼中学-神村学園高校-尚美学園大学を経た後、約2年のブランクを経て、埼玉西武ライオンズ・レディースに入団。セカンドのレギュラーとしてセンターラインを固める。高校と大学でキャプテンを務め、高校は全国高校選手権ベスト4、大学では全国大学女子選手権優勝(連覇)に導いた。また男女混成の5人制手打ち野球「ベースボール5」の日本代表としても活躍。第1回W杯での銀メダル獲得に貢献した。ベースボール5の体験会など普及活動にも積極的に参加している。右投げ左打ち。身長164cm。背番号1。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 


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