第156回 傷ついて、汚れてこそ体育館
パラスポーツに関わる活動を始めた約20年前。
車椅子スポーツのイベントで一番ハードルが高かったのは、体育館探しでした。
STAND設立のきっかけとなった電動車椅子サッカーの活動場所は、所謂「障害者高齢者体育館」でした。だから車椅子スポーツで使用できたのです。他の体育館が使用できないことを知る由もありません。しばらくして様々なパラスポーツイベントを各地で展開しようとしたとき、このハードルのことを知りました。
曰く「床が傷つくから使用許可が出ない」と。
2013年、東京パラリンピック開催が決定し、直後からパラリンピック、パラスポーツの認知度は上がり、パラスポーツのイベントが各地で賑やかに行われました。わたしは、パラリンピックが社会変革活動で、こうして社会が変わっていくんだと、実感しました。“スポーツ施設は、障害の有無に関係なく開かれたものとなっていく”と。
新型コロナで延期・中止していたスポーツイベントが昨年から徐々に再開されていきました。STANDでも、3年ぶりに、リアルイベントの計画を立て始めたときのことです。
「えっ? 体育館、借りられないって?」。耳を疑いました。
いや、そんなはずはない。パラリンピックで、社会は変わったんじゃないの?
車椅子スポーツ関係の方々にお聞きしてみました。
「貸してくれるところ、増えましたかね~? そんな感じはしないですね~」
「今練習で使っている体育館が耐震工事に入るので、他を探すため、県庁に電話で問い合わせたら“車椅子に貸し出しする体育館はありません”とはっきり言われました。ショックです」
「これまで借りていた体育館が、東京パラリンピックを契機に、リニューアルされたんです。チームみんなで喜んでいたんです。すると、これまではぼろかったから車椅子OK。でも新しくなったので車椅子はNGだって」
こんな胸が痛くなるような話もあります。
「なんとか頼んで貸してもらいました。当日事前に紙を渡されました。体育館の図面です。床をよ~くチェックして、元々ある傷や汚れを書き込んでくださいと。書いて提出しました。イベントが終わると、待っていたかのように係の人が件の図面をもって駆けつけてきました。図面と床の傷を照合しているのです。新しくできた傷はないか~と。自分たち、そんなに迷惑かけているのかな、と悲しくなりました」
またですか。そしてまだ、ですか。
東京パラリンピック後、すっかり変わっていることを想像・妄想・大きな期待をしていましたが……。そうはなっていないようです。
もちろん修理に費用がかかるなど、傷や汚れが厄介なことは理解しています。
しかし、それを避けるために、施設の貸し出しを拒否することは本末転倒。きれいな衣装を購入したものの、「傷つき、汚れるのがいやだから」という理由で、タンスにしまい、裸で出掛けますか?
もういい加減“新品のぴかぴかを保つ”から“傷つき、汚れてこそ体育館。それを誇りに思う”に変わりませんか。
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>