第157回 障害は、その人を象徴する特徴ではない

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 去る10月22日から28日まで、中国・杭州にてアジアパラ競技大会が開催されました。大会は44カ国・地域の選手が参加、22競技が実施されました。日本選手団は監督、コーチらを含めて430人で編成。車いすテニスや卓球など一部競技の優勝者は、来年のパリ・パラリンピック出場権を獲得しました。

 

 さて、この大会をご存じの方はどのくらいいたのでしょうか。

 2年前、東京パラリンピック開催中は、パラスポーツを見聞きし、触れる機会が多くありました。

 

「見た見た」

「すごかった」

「かっこよかった」

「激しかった」

「エキサイティングだった」

「戦略的だった」

「感動した」

 私は様々な感想を耳にしました。

 

 しかし、いずれも「1回見たことがある」「一度体験したことがある」で終わり、「知っている」で満足してしまっていることを危惧していました。

 この2年、「見たことがある」のまま、止まっている人がどれほど多いのでしょうか。

オリンピック・パラリンピックは社会変革活動です。その一つが共生社会です。その観点から、「見たことがある・知っている」で終わっては意味がありません。もったいないんです。

 

「知っている」のその先へ、次へと進んでこそ、社会変革につながります。

 こういった機会を通して、障害のある人に慣れることこそ、次への足掛かりです。

 

 車椅子に乗った人と初めて会う場面を想像してみてください。初対面では、その人を象徴する最大の特徴が「車椅子に乗った人」になってしまいます。それは見慣れていないから、珍しいことだからです。

 しかし、その人と話してみると、映画が好き、読書が趣味、タイガースファン、語学堪能で英語と韓国語を話す……。もっとその人を理解して、車椅子に、そしてその人の障害に慣れてこそ、変革への一歩なんです。

 

 それはなぜか。慣れて、その人のことを理解していくと。

 この人は映画が好き、読書が好き、タイガースファン、語学堪能、そして車椅子を使用している……。

 そうなんです。車椅子に乗っていることは、この人を象徴する最大の特徴ではなくなります。人として向き合い、付き合うことが広がってこそ、共生社会へと進みます。パラスポーツが、そのきっかけとなることは、間違いありません。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。第1期スポーツ庁スポーツ審議会委員、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問を務めた。2022年10月、石川県成長戦略会議委員に就任。同11月に馳浩スペシャルアドバイザーに就いた。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。
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