浦和レッズの今季最大の目標はクラブワールドカップの出場である。
 クラブワールドカップは、今年まで日本での開催が決まっている。3月23日に開催国枠の設置が決定し、今季のJ王者の大会出場が確定した。


 レッズは今季のJリーグ、もしくはアジアチャンピオンズリーグ(ACL)で優勝すれば、クラブワールドカップに出場できる。だが、レッズにしてみれば、ACLを制覇して、アジア王者として胸を張って出場したいところだ。

 日本協会、Jリーグも協力を惜しまない姿勢を示している。犬飼基昭Jリーグ専務理事(前浦和レッズ社長)をプロジェクトリーダーに任命し、資金、人材、スカウティングなど、あらゆる面でACLに出場するクラブのバックアップに乗り出している。

 さる3月7日、Jリーグの王者レッズはACLのグループステージ初戦(ホーム)でペルシク・ケディリ(インドネシア)を3対0で破り、白星発進した。幸先のいいスタートを切ったレッズだが、心配材料もある。途中交代を余儀なくされたFWのワシントンが、ベンチに向かって反抗的な態度を示したのだ。ベンチに下がる際にはポルトガル語で「ポーハ(アホ)」と叫んだというのだから、穏やかではない。

 さすがに「ポーハ」はまずいと思ったのか、翌日、ワシントンは中村修三GMとオジェック監督に謝罪し、ひとまず“一件落着”となったようだが、これで完全に火種が消えたとは言いがたい。レッズファンも気をもんでいるに違いない。

 レッズには、クラブワールドカップの出場とともにリーグ連覇という目標もある。昨季の得点王であるワシントンを抜きにして連覇はありえない。それだけエースストライカーの力は絶大なのだ。

 レッズが反面教師とすべきは、FCバルセロナか。
 昨季、バルセロナは圧倒的な力で国内リーグと欧州チャンピオンズリーグ(CL)の2冠を達成し、今季もCL優勝の最右翼にあげられていた。だがエースであるFWエトーの造反をきっかけにチームは大きく崩れていった。

 エトーがライカールト監督の起用法に不満を唱えたのは2月11日の国内リーグ・ラシン戦だった。故障明けで20分程度の出場時間を与えられるものだと思っていたエトーは、後半25分を過ぎても呼ばれないことに腹を立て、その後、交代を告げられても応じなかった。

 エトーは相当、不満がたまっていたようだ。クラブの内部事情まで暴露してチームをかき回した。普通、これだけの“反党行為”をすればペナルティは避けられないところだが、フロントはエトーを不問にふしてしまった。

 思うにこの2年間の国内リーグで51ゴールを叩き出し、昨季のCL優勝の立役者となった絶対的なエースに、これ以上へそを曲げられたら困ると考えたのだろう。エトーに引っかきまわされたチームはリズムを崩し、2月18日のバレンシア戦は1対2で敗北。その3日後のCL決勝トーナメント一回戦の第1戦(アウェイ)でも1対2で敗れ、結果的にベスト16で姿を消した。

 エトーはワシントンと同様、今季のリーグ開幕前に行われたスーパーカップ・エスパニョール戦でも途中交代に腹を立て、そのまま帰宅している。優勝セレモニーにも姿を見せることはなかった。

 ストライカーの扱いは難しい。監督の命令に唯々諾々と従っているようなストライカーは怖くも何ともない。「オレがこのチームに勝利をもたらしているんだ」と言い切るぐらいのエゴイズムが必要だ。

 とはいえ、糸の切れたタコみたいに手前勝手に振る舞ってもらっても困る。監督への反抗はもってのほかだ。ひとりの選手のワガママを許してしまえば他の選手に示しがつかなくなってしまう。

 ある意味、絶対的なストライカーをどう使いこなすかは、サッカーの監督にとって永遠のテーマだろう。甘やかしすぎてはいけないし、かといって縛り付けるのもよくない。手綱の引き締め具合が非常に難しい。

 話をレッズに戻そう。ワシントンが今のレッズにとって余人をもって代えがたいストライカーであることは言を俟たない。彼が前線に張り、しっかりボールをキープしているからこそ田中達也、永井雄一郎、ポンテらシャドーストライカーの技術が生きるのだ。

 言うまでもなくレッズの最大の強みは安定した守備である。昨季はリーグ最少の28失点で乗り切った。「リスクを冒さないレッズのサッカーは面白くない」(FC東京・原博実監督)との声もあったが、守りが安定しないことにはタイトルはとれない。

 昨季、J2を制した横浜FCもそうだが、守りの安定したチームが好成績を残しているのは近年のサッカーの大きな特徴である。監督がブッフバルトからオジェックに代わっても、基本的なスタイルに変化は見られない。逆に言えば、手数をかけずに点をとれるのがレッズの強味である。ワシントンがいるのといないのとでは敵が受けるプレッシャーがまるで違う。

 幸い、事件後、ワシントンとオジェック監督は和解したようだが、一方で「覆水盆に返らず」という言葉もある。オジェック監督の起用法に不満を感じたワシントンが、再び反旗を翻すことはないのだろうか。

 いずれにしても今季のJリーグ、ACLがレッズを中心に展開されることは間違いない。「日本やアジアでつまずいているわけにはいかない」との思いがフロントにはある。災い転じて福となす、となればいいが……。

(この原稿は07年5月号『三菱ふそう』に掲載されたものです)


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