15日、パリオリンピック日本代表選考会のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)が東京・国立競技場を発着点に行われた。男子は小山直城(Honda)が2時間8分57秒で制した。2位に9秒差で赤﨑暁(九電工)、3位には14秒差で大迫傑(Nike)が入った。女子は鈴木優花(第一生命)が2時間24分9秒で優勝した。一山麻緒(資生堂)が2時間24分43秒で2位、細田あい(エディオン)が2時間24分50秒で3位。この結果により、男子は小山直城と赤﨑、女子は鈴木優花と一山がパリオリンピック代表権を獲得した。残りの1枠はMGCファイナルチャレンジ(指定レースでの設定タイムクリアが条件。該当者なしの場合はMGC3位に出場権)終了後に決まる。

 

 秋晴れの4年前とは打って変わって、冷たい雨がランナーたちを出迎えた。スタート地点の気温は14.5度。パリオリンピックへの道は険しいものとなった。

 

 前回は30人が2枚の切符を争った男子は、61人が出場し、倍率はさらに激化した。前回のMGCで東京オリンピック代表に内定した中村匠吾(富士通)、服部勇馬(トヨタ自動車)は出場権を獲得できなかったが、現日本記録保持者の鈴木健吾(富士通)、21年東京オリンピック6位入賞の大迫、世界選手権ブダペスト大会代表の山下一貴(三菱重工)ら日本歴代トップ10の記録を持つランナーが8人がエントリーした。

 

 スタートは国立競技場のトラックを約2周するが、ここで飛び出したのがマラソン130レース目となるベテランの川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)だ。出だしの5kmを14分44秒で通過をすると、10kmで12秒差、15kmでは28秒と、その差を広げた。7km手前で出遅れた鈴木健吾は12km手前で棄権。さらに日本歴代4位のタイムを持つ其田健也(JR東日本)が15km手前でレースをリタイア。有力ランナーが戦線を離脱した。

 

「漫画の主人公になったような気持ちで先頭突っ走っていました」と川内。30kmを過ぎても34秒差を付けた。「正直、“ワンチャンあるんじゃないの?”と思った」。しかし、35km通過地点では、わずか2秒差と詰められ、すぐに堀尾謙介(九電工)ら2位集団の6人に吸収された。先頭集団は堀尾、川内、大迫、小山直城、作田直也(JR東日本)、井上大仁(三菱重工)で形成。パリ五輪切符争いはこの7人に絞られた。

 

 レースが動いたのは39km過ぎ。ここで小山直城が飛び出した。「自分からは仕掛けずに、無駄な動きをせず集中してレースに臨もうと思っていた」。登り坂で完全に抜け出すと、そのまま他の選手を振り切った。7月のゴールドコーストで大会記録をマークして乗り込んだMGCの舞台。躍進を遂げる27歳は「パリでは8位入賞に向けて、しっかりと準備したい」と意気込んだ。

 

 2位争いはトラック勝負となったが、小山直城に続いて国立競技場に戻ってきた赤﨑がそのままフィニッシュ。マークしていたという大迫との勝負に競り勝った。自己ベスト2時間9分1秒は出場者の中で下から数えた方が早い数字だが、見事パリ行きの切符を掴み取った。

「陸上人生最大の目標がマラソンで日本代表になること。今回夢が叶ってよかった」

 

 一方、2大会連続で2位と5秒差の3位となった大迫は「選考レースに限らず国際大会でも3位が結構多い。あと一歩前にいくにはどうしたらいいか考えたい」と次を見据えた。男子のファイナルチャレンジは12月の福岡国際マラソン、来年2月の大阪マラソン、3月の東京マラソンの3大会が対象。2時間5分50秒と日本歴代3位相当の設定タイムをクリアしなければ大迫が選ばれる。4年前はその結果を待つのではなく自ら東京マラソンに出場し、日本記録を更新してオリンピック切符を掴み取った。パリへの道をどう選択するのかにも注目が集まる。

 

 今大会を大いに盛り上げたのが、自ら仕掛けて30㎞まで一人旅を続けた川内だ。後続に追いつかれた後も粘りの走りで4位。「大迫選手に勝てれば表彰台だった。私、結構表彰台好きなんですよね。4位というのは嫌な順位だと思いますね」と悔しがったが、表情は晴れやかだった。瀬古利幸リーダーも、男子の中継局がTBSだったこともあって「”アッパレ”をあげたい」と高く評価した。ペースメーカーなし、一発勝負の選考会、雨という状況下で2時間8分台が出たのは、川内の存在が大きかった。「海外のレースで戦いたい。まだまだ私やりますから」と笑みを見せた。

 

 女子は初出場で24歳の鈴木優花、2回目の出場となった26歳の一山がパリ行きの切符を手にした。

 男子から約10分後のスタートとなった女子は前回の10人から倍以上の24人が2枚の切符を争った。前回MGC優勝の前田穂南(天満屋)、同2位の鈴木亜由子(日本郵政グループ)、東京オリンピック8位入賞の一山を中心にレース展開されると予想された。この3人に加え、安藤友香(ワコール)、鈴木優花ら15人が先頭集団を形成した。5km通過は17分ちょうど。10kmは33分58秒、15kmは51分2秒。20km通過は1時間8分4秒で、先頭集団は10人に絞られた。

 23km過ぎ、一山が集団から抜け出した。ここについていったのが細田。約10㎞競り合ったが、33km過ぎに一山が細田を引き離し、単独走となった。細田は、鈴木優花と加世田梨花(ダイハツ)に追いつかれて2位集団に。一山は38㎞過ぎまで先頭をキープした。

 この一山をとらえたのが、2位集団の先頭を走っていた鈴木優花だ。「とにかく自分のリズムで行けばいける」と無理せず、安定したペースを刻み続けた。39㎞手前で一山を突き放した。「2番以内に入ればオリンピックに決まりますが、世界と戦うためには1番をとることからしっかり見据えていかなけれないけないと思っていた」。自己ベストを更新する2時間24分9秒でフィニッシュした。3度目のマラソン、24歳の新鋭がパリオリンピックの切符を掴んだ。「ようやくスタートラインに立てる」と前を向いた。

 一方、一山はそのまま2位をキープした。「3番目とあまり差がないとは走っていて感じていた。“ここで抜かれるわけにはいかないと必死に走りました」。国立競技場内では、レースを途中棄権した夫の鈴木健吾も声援を送った。「今まで陸上をしてきた中で一番うれしい2番でした」と一山。前回は6位でオリンピック切符はその後のファイナルチャレンジでの獲得となったが今回はMGCで出場権を掴んでみせた。

 3位には加世田と競った細田が入った。「目標は2位以内で代表権を獲得することだったので、素直に悔しい」。女子のファイナルチャレンジは来年1月の大阪国際女子マラソン、3月のナゴヤウィメンズマラソンの2レースのみ。設定タイムは2時間21分41秒だ。前田穂南、鈴木亜由子に加え、日本歴代2位の新谷仁美(積水化学)、同6位の松田瑞生(ダイハツ)もいる。最後の1枠の争いは、激しいものになりそうだ。
 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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