日本シリーズの第1戦をとった阪神がオリックスを4勝3敗で下し、38年ぶり2度目の日本一を達成した。

 

 2リーグに分立した1950年にスタートした日本シリーズ。これまでに74回行なわれ、第1戦に勝ったチームの戦績は45勝26敗(引き分けの3試合を除く)。勝率にすると6割3分4厘。データは白星スタートのチームが有利であることを示している。

 

 にもかかわらず、球界には未だに「第2戦重視説」を唱える者が少なくない。いかなる根拠に基づくものなのか。

 

 私が知る限りにおいて、「第2戦重視説」を最初に唱えた監督はV9巨人の名将・川上哲治である。

 

 川上の勝負強さは特筆に値する。監督として日本シリーズに11回(61、63、65~73年)臨み、11勝0敗。敵将の胴上げを眺めることは一度もなかった。

 

 注目すべき点がある。V9以前の61、63年は、いずれも黒星スタートなのだ。しかし2戦目に勝利し、61年は南海を4勝2敗、63年は西鉄を4勝3敗で下し、日本一になっている。

 

 想像するにV9前夜の日本シリーズで、川上は短期決戦における戦い方を学んだのではないか。初戦、勝つに越したことはないが、負けてもいい。そのかわり2戦目は必ず勝つ。大事なのは2連敗しないことだと。

 

 少なくとも史料や文献にあたる限り、61、63年の時点で、川上は「第2戦重視説」を唱えてはいない。ちらほらと、それらしい言葉が散見され始めるのはV9中期以降であり、確立するのは、後期に入ってからだ。

 

 参考までに述べれば、65年からスタートするV9の初戦の戦績は7勝2敗である。第1戦を落とした68、73年も2戦目をとり、タイに持ち込んでいる。

 

 王貞治と長嶋茂雄のON砲を有する、この頃の川上巨人は、相撲でいうところの“横綱相撲”がとれた。がっぷりと四つに組み、まわしを取れば、まず負けることはなかった。最初の2連戦は1勝1敗で十分だったのである。

 

 川上本人に、その点を直接質したのは今から34年前の89年春のことだ。こちらの意に反して、川上は「初戦こそ大事だ」と語った。そこで得た情報が2戦目以降に役立つというのである。言外には腰を据えて戦うのは2戦目以降だとのニュアンスが漂っていた。

 

 川上に似た物言いをしていたのが西武で6度の日本一(86~88、90~92年)を達成した森祇晶だ。V9巨人の正捕手である森は、川上の分身として短期決戦における必勝法を体得していたのだろう。7戦までを視野に入れた用心深い戦い方に、それが見て取れた。

 

 ひとまず結論。今の球界にV9時代の巨人や黄金時代の西武に匹敵する横綱クラスのチームは見当たらない。ならば先手を取りたい。悪くても出だしは1勝1敗だ。こうしたトレンドは当分続くだろう。

 

 追記。長い歴史を誇る阪神だが「黄金期」はまだ一度もない。今回の日本一は、その入り口なのか、それとも……。

 

<この原稿は23年11月8日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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