各地で高校サッカーの予選が最終盤を迎えている。試合のハイライトを動画で眺めながら、改めて感心させられるのはピッチの素晴らしさである。

 

 わたしが専門誌で高校サッカーの担当をしていた頃、この時期に緑の芝生を整えているスタジアムは皆無だった。どこも土に毛の生えたようなピッチ状態で、ボールがイレギュラーせずに転がっていく方が稀だった。

 

 だが、Jリーグが全国に広がったことにより、青森だろうが鳥取だろうが沖縄だろうが、どの会場も美しいピッチを準備してきている。日本サッカーの進化を実感できる光景である。

 

 もちろん、ピッチの上でプレーする選手たちのレベルも確実に上がってきている。まだまだ問題があるのは事実にせよ、間もなくインドネシアで開催するU-17W杯に、日本はポットのチームとして出場する。言ってみれば第1シード。若年層の大会ゆえ、FIFAランキング以上に粗い格付けにはなるが、日本の若い力が高い評価を受けているのは間違いない。

 

 ピッチのレベルは質量ともに上がった。ピッチでプレーする選手もまた然り。となれば、今後はピッチ外のレベルも上げていきたい。

 

 20世紀のサッカーにおいて、主役はあくまでも現場だった。まず、いい選手を育てることのできるクラブが強豪となり、次に資金力でそうした選手を引き抜く存在が現れた。監督の力量も必要になり、選手に負けない名声、報酬を手にする監督も珍しくなかった。

 

 だが、21世紀に入るか入らないかの時期から、そこに第3の要素が加わった。チームを統括するゼネラルマネジャー、いわゆるフロントの存在である。

 

 選手の移籍が活発になり、1つのクラブで人生を終える選手が絶滅危機種になったことで、クラブ側はいい選手を育てること以上に、どんな選手を売り、どんな選手を買うかという判断が求められるようになった。

 

 これはサッカーに限ったことではない。米国では弱小チームのGMを描いたノンフィクションがベストセラーとなり、映画化までされた。欧州のサッカーシーンでも、20世紀ではありえなかった“花形GM”が出現し、その去就には並の選手以上の注目が集まるようになった。瀕死の状態にあったボルシアMGを立て直し、ビッグクラブによる争奪戦の末にライプチヒに移ったマックス・エベールなどは、その象徴的存在だ。翻って日本のサッカーに目を向けると、サポーターの怒りフロントに向けられることが珍しくなくなった反面、「代わりにアイツを連れてこい」と指名されるようなマネジメントのプロが見当たらない。世界の潮流に日本が無縁でいられるはずもなく、いずれは変わるはず、と思い続けてきた。

 

 ただ、ここにきてついに変化の兆しが色濃くなってきた。初のJ1昇格を決めた町田。最大の功労者としてメディアが取り上げるのは黒田監督だが、彼に目をつけ、獲得に動いたフロントも素晴らしかった。

 

 7日には、関東リーグ1部の南葛SCが新監督およびテクニカルダイレクターとして、風間八宏氏を迎えたというニュースがあった。風間氏の決断も凄いが、わたしはアプローチしたフロントに拍手を送りたい。

 

 町田、南葛に共通して言えるのは、前例踏襲の軛から解き放たれているということ。こういうフロントが増えてくれば、日本のサッカーはもっと面白くなる。

 

<この原稿は23年11月9日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>


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