何度か書いてきたが、GKはサッカーにおける“炭鉱のカナリア”だと思っている。人口比で10%にも満たないポジションの強化に乗り出せる国が、残る90%以上を放置するはずがない。つまり、いいGKを輩出できるようになった国は、いずれ必ず強くなる。ベルギー、フランス、スペインなどは、かつて英国やドイツからGKのレベルを嘲笑われていた国々でもある。

 

 そんな観点からインドネシアで行われているU-17W杯を眺めていると、軽い目眩さえ覚えてしまう。ほとんどの国が、素晴らしく完成されたGKを用意してきている。2試合で19失点を喫したニューカレドニアでさえ、例外ではなかった。

 

 となれば、近未来はいよいよボーダーレスな時代になることが予想されるが、反面、必ずしも結果が未来に反映されるとは限らないのが育成世代のW杯である。

 

 21世紀がまだ未来だった時代、多くの識者が「次世代はアフリカの世紀になる」と口にしていた。根拠の一つになっていたのは、U-17、U-20、U-23などで吹き荒れたアフリカ旋風である。彼らが大人になれば――多くの人がそう考えた。

 

 だが、21世紀の4分の1が過ぎようとしている現在、サッカーの世界にアフリカの時代は訪れていない。今大会でもマリやセネガルなどが破壊的な強さを見せているが、個人的な成功は別にして、この結果が未来に直結すると考える識者は、もはや少数派だろう。

 

 ただ、ならば育成世代の世界大会が無意味なのかといえば、日本人としてはそうとも言い切れない部分がある。

 

 というのも、高校生の時に世界大会を経験していなければ、中田英寿は中田英寿になっていなかった可能性があるからです。

 

 いまから30年前、地元開催の恩恵を受けて世界大会に出場した中田は、そこで世界のトップクラスを目指す才能がどの程度のレベルにあるか、肌で感じることができた。そこで得た物差しが、当時の日本人が持ち得ずにいた卑屈でもなければ尊大でもない世界との距離間は、大人になってからも決して揺らぐことはなかった。

 

 14日、日本はアルゼンチンに1-3で敗れ、1勝1敗で第3戦のセネガル戦に臨むことになった。

 

 すでに勝ち点6を獲得したセネガルは強い。ポーランド戦でハットトリックを演じたガイエをはじめとする攻撃陣は、A代表のDFであっても相当に手を焼かされるレベルにある。力関係でいけば、W杯カタール大会でスペインやドイツと戦った時よりも難しい試合になるかもしれない。

 

 若い日本の選手たちにはまず、すでにA代表に選ばれている者もいるというセネガルとの力関係をじっくりと味わってほしい。何が劣り、何が優っているかを身体全体で吸収し、そこを埋めていくため、伸ばしていくための動機付けにしてほしい。

 

 30年前の中田英寿は、ナイジェリアの運動能力に驚愕し、以後、ぶつかっても倒れない身体をつくることに邁進した。1-2の敗戦は、決して無意味ではなかった。

 

 もちろん、勝つことでしか得られないものもある。

 

 11日、ブラジルに2点のリードを許したイランは、後半の19分間で3点を奪い衝撃的な逆転勝ちを演じた。この歴史的偉業が、今後の彼らの力にならないはずがない。大人の世界ですら、W杯での逆転勝ちがその国を大きく変えることがある。17日は、若い日本代表にとって人生を変えるかもしれない。

 

<この原稿は23年11月16日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>


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