14日、日本ラグビーフットボール協会(JRFU)は都内で、ジャパンのエディー・ジョーンズ新HC就任記者会見を行った。会見にはジョーンズ氏の他、JRFUの土田雅人会長、岩渕健輔専務理事が同席。ジョーンズ氏が描くプラン、また就任に至る経緯についても語られた。

 

 この秋、フランスで「エベレスト」の頂上を目指したジャパンは、1次リーグ敗退に終わった。W杯2大会(19年日本、23年フランス)を率い、約7年間指揮を執ったジェイミー・ジョセフ氏が去り、新たな指揮官を求めた。「日本代表、日本ラグビーの強化にベストな指導者」(土田会長)として、オーストリア代表前HCのジョーンズ氏の再登板を決めた。

 

 この日行われた次期HC就任会見、一般的には新指揮官への期待を寄せるものだが、土田会長による冒頭の挨拶は、それだけにとどまらなかった。

「私が旧知の仲であるがゆえに憶測で報道が出ていることは残念です」

 

 土田会長の言う報道とは、オーストラリア代表HC在任期間中にJRFUが接触し、ジャパンのHC選考は“出来レース”だったと見られていることだ。土田会長は「個人の都合が組織の決断に影響を与えることはあり得ません。すべての関係者、理事、選考委員の名誉にかけてそんなことはない。公平、公正なプロセスに準じている」と断言し、「彼を選んだのは世界で勝つため」と語気を強めた。

 

 質疑応答の場面では、海外メディアから改めて“事前交渉”があったかについて追及されたが、ジョーンズ氏は「あくまで噂に過ぎない」と否定した。さらに「裏切られたオーストラリアファンに対しては?」と問われると「(オーストリア代表のHCとして)結果を残せなかったことは残念で、申し訳ないと思っている。ただ何もやましいことはない」と答えた。

 

 土田会長が「更なる高みに導いてくれる」と期待するジョーンズ氏の国際経験の豊富さは申し分ない。オーストラリア代表HCとして、03年オーストラリア大会準優勝。15年イングランド大会ではジャパンを率い、過去最高の3勝(当時)を挙げた。低迷していたイングランド代表を19年W杯日本大会で準優勝に導き、同代表HC在任中の勝率は7割を超える。23年フランス大会では、不調のオーストラリア代表を引き上げることはできなかったが、これだけ代表HCのオファーが続いていることが、その手腕を世界的に評価されている証拠とも言えよう。

 

 ジョーンズ氏は時折日本語も織り交ぜながら、自身2度目のジャパンHC就任への想いを述べた。契約は来年1月1日から27年W杯オーストラリア大会まで。目標は「まずはトップ8に入る。常にこのレベルをキープしたい」と話した。

「強いチームには特色がある。きちんとしたアイデンティティを持つ必要がある」と言うジョーンズ氏が掲げるラグビースタイルは「チョウソク(超速)」だ。“超速”とは何を指すのか――ジョーンズ氏は説明する。

「相手より速く動くだけではない。考えるスピード、決断するスピード。15人という人数はチームスポーツの中でも多い。その中で素早く考え、結束する。ラグビー脳を高めていくことが重要だ」

 

 またJRFUがジョーンズ氏に求めているのは、代表強化のみならずユース世代からトップ代表へと繋がる「一貫性のある育成」(土田会長)だ。ジョーンズ氏は「たくさんの才能を育てていく。若い力のポテンシャルを生かす、システムをつくりあげていきたい」と意気込む。アイルランドやフランスを例に用いながら、「我々ができることはベストになるために環境を整えること」とし、「大学ラグビーの選手が“もっと上にいきたい”と思わせるようなモチベーションを高める工夫が必要になる」と大学ラグビーへの改革についても言及した。

 

 懸念材料に挙げられるマスコミ、コーチ陣と軋轢があった過去について、土田会長は「エディーさんにも足りないところはある。そこは誰かがサポートする。“チーム・エディー”を組む」とサポート体制を約束した。リーグワン、大学ラグビー、高校ラグビーなどの各カテゴリーが、いかに一枚岩になれるか。ジョーンズ氏を支えるJRFUの遂行力が求められる。

 

(文・写真/杉浦泰介)