26日、ボクシングの世界スーパーバンタム級4団体王座統一戦が東京・有明アリーナで行われ、WBC&WBO王者の井上尚弥(大橋)がWBA&IBF王者のマーロン・タパレス(フィリピン)を10ラウンド1分2秒KO勝ちで、史上2人目となる2階級での4団体統一王者に輝いた。

 

 自身10本目の世界ベルトは、2本まとめて一気に獲得。バンタム級に次ぐ2階級目の4団体統一を果たした。
 
 井上がスティーブ・フルトン(アメリカ)を破り、WBCとWBOのベルトを手にした3カ月前、タパレスは無敗王者のムロジョン・アフマダリエフ(カザフスタン)から判定でWBAとIBFのベルトを奪っていた。タパレスの戦績は40戦37勝(19KO)3敗。対日本人は4勝1敗。“ナイトメア(悪夢)”の異名を持つサウスポーが、再び無敗の王者に土を付けに来た。
 
 ゴングが鳴ると、試合を優勢に運んだのは井上だった。ガードの上からでもお構いないとばかりに強打を当てる。タパレスのパンチが井上にヒットすると会場から歓声が沸く。それも井上の“モンスター”たる所以かもしれない。
 
 4ラウンド、左フックでタパレスの足を止めると、猛ラッシュ。ダウンを奪った。タパレスはカウント9で立ち上がる。ここで畳み掛けたかったがゴングに相手が救われるかたちに。KO勝ちも時間の問題かと思わせたが、フィリピン初の4団体統一王者を狙う男のタフネスぶりを見せた。ガードを固めながら反撃を狙う。井上によれば「苦しい表情を見せなかったので(ダメージの蓄積を)そこまで読み取れなかった」という。
 

 岩のように固いディフェンスも10ラウンドついに決壊した。井上が右でタパレスをロープ際に後退させると、左を軽く当ててのワンツー。右ストレートを被弾したタパレスはキャンバスに崩れ落ちた。レフェリーがカウントアップする間、膝を立たせるまでで精一杯。レフェリーが両手を大きく交錯させると、井上は右拳を小さく突き上げた。

 

 試合後、タパレスは「できることはすべてやり尽くした」と完敗を認めた。メディアから“楽勝ムード”が漂っていたが井上陣営は警戒を緩めなかった。父・真吾トレーナーは「自分はホッとしている」と安堵。試合中のインターバル間のやり取りを明かした。

「(タパレスの)ビデオ見た時に技術、テクニックがあることを再確認できていた。試合中のインターバルに尚弥に聞くと『パンチが当てづらい』と言っていた。打ち合うよりもカウンター、打ち終わりとか、慌てなくていいから、コツコツ、コツコツ、じりじりでいいからダメージを与えていけばいい、とアドバイスしていた」

 

 これで世界戦7連続KO勝ちだ。大橋秀行会長は「2階級で4団体制覇を、全部KOで勝った。判定とKOでは全く違うものになる。KOで勝ったというのが大きいこと。相変わらず井上尚弥はすごい」と井上の“モンスター”ぶりを改めて実感したようだ。当の本人は「達成感はあるが、ここは通過点として捉えていた一戦。うれしさを少し噛み締めながら過ごし、次の一戦に向けて頑張っていきたい」と満足する様子は見られない。

 
 早くもスーパーバンタム級4団体王座統一を成し遂げたことにより、この先をどう見据えるのか。「スーパーバンタム級は今の適正階級だと思っている。来年、再来年はもっと強い姿を見せたい」と井上。スーパーバンタム級のチャプターは2戦で完結はしない。5階級制覇、史上初となる3階級目の4団体統一への夢は広がるが、すぐにその道へ向かうつもりはないようだ。「ファンが観たい試合をしたい」。元スーパーバンタム級2団体統一王者のアフマダリエフ、元WBC王者のルイス・ネリ(メキシコ)らとの対戦を視野に入れる。
 
(文・写真/杉浦泰介)