またかと言うべきか、やっぱりと言うべきか。
 スペインの名門クラブであるレアル・マドリードが今オフ、マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)のFWクリスティアーノ・ロナウドの獲得を狙っていると地元紙が報じた。


 オファーの金額は実に8000万ユーロ(約124億8000万円)。あるところにはあるものだな。C・ロナウドはポルトガルが生んだ稀代のドリブラー。昨夏のW杯ドイツ大会ではポルトガル代表を牽引し、チームの40年ぶりのベスト4進出の立役者となった。

 所属するプレミアリーグでは4月3日現在、得点ランク2位の16ゴール。「FWロナウジーニョ(ブラジル)をしのぐ、現時点で世界最高の選手」との声も一部にはある。絶妙のボディバランスで敵陣を突破し、フィニッシュも正確。彼がボールを持った時の期待感はロナウジーニョと双璧である。しかも伸び盛りの22歳。レアルにすれば、喉から手が出るほど欲しいヨーロッパ産のスターである。

 レアルは迷走を続けている。金に糸目をつけない補強で01-02欧州チャンピオンズリーグ、02-03スペインリーグを制したが、現在はその後遺症に悩まされている。今季の欧州チャンピオンズリーグでは、決勝トーナメント1回戦でバイエルン(ドイツ)に敗れた。国内リーグでは3位につけているが、既に7敗(4月3日現在)を喫していてタイトル獲得の可能性は低い。フロントは既に来季を見据えており、補強の第一弾がC・ロナウドというわけだ。

 おさまらないのが、C・ロナウドを5年前から手塩にかけて育ててきたマンチェスター・Uの名将アレックス・ファーガソン監督だ。
「スペインの2つのクラブ(レアルとバルセロナ)はいつも同じ過ちを繰り返している。クラブの会長選挙が迫ってくると、スーパースターの獲得を公約に掲げるんだ。C・ロナウドはそんな誘いに乗るほどバカではない」

 そういえば米MLS(メジャーリーグサッカー)移籍が決まったMFデビッド・ベッカム(イングランド)も、マンチェスター・Uからレアルというコースを歩んだ。サッカー選手にとっては、これ以上ないエリートコースだが、ベッカムにとってそれが良かったかと言えば大いに疑問だ。

 大金を手にしても活躍の場が得られなかったら意味がない。ファーガソンはそのことをC・ロナウドに言いたいのだろう。レアルが狙っているのはC・ロナウドだけではない。ラモン・カルデロン会長は、ミラン(イタリア)の司令塔であるMFカカ(ブラジル)の獲得もほのめかしている。

 FWファンニステルローイ(オランダ)、FWラウール(スペイン)、FWロビーニョ(ブラジル)、FWイグアイン(アルゼンチン)などスター選手を数多く抱えているにも関わらず、会長が代わってもレアルの“欲しい欲しい病”は相変わらずである。

 しかし、オールスターチーム=最強チームでないことは、レアルのこの数年の不振がはっきりと証明している。これまでベンチに座ったことのない選手にとって、硬いイスに座ることがどれほどの苦痛かは、先述したベッカムの例で明らかだろう。

 スーパースターと呼ばれる選手たちは、たとえ自らのプレーに非があったとしても、それを認めることはない。必然的に不満や鬱憤は指揮官やチームメイトたちに向けられる。チームが空中分解するのは時間の問題だ。

 C・ロナウドも他のスーパースターたちと同様、個性的かつ独創的なプレーをする“カネのとれる”プレーヤーである。しかし、プレーにケチをつけられたり、硬いベンチに座らされる時間が長くなると、チームの反乱分子になるのは目に見えている。

 私見だが、独創性よりも戦術を優先する現監督のファビオ・カペッロとC・ロナウドの相性がいいとは思えない。もちろん、カペッロが来季もレアルにいればの話だが……。

 早くもカペッロの後任にはスペインリーグのヘタフェで指揮を執るベルント・シュスターが名乗りを上げている。
「レアルの指揮を執る準備はできている」
 カルデロン会長とは既に契約の中身を詰めているというウワサも流れている。こちらの方が要注目だ。

(この原稿は07年3月16日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです)


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