四国・九州アイランドリーグが5日、開幕した。今季から6球団にリーグが拡張され、約150名の選手たちが白球を追っている。悲願の初優勝を狙う愛媛マンダリンパイレーツにも夢にチャレンジする地元プレーヤーがいた。ショートを守る檜垣浩太だ。昨シーズン、育成選手から這い上がり、一気にリーグ屈指の左バッターに躍り出た。今季はチームの優勝と自身のNPB入りを目標に掲げる23歳に、二宮清純が迫った。
二宮: 昨年は1年目で打率.309の好成績を残し、今年はチームのキャプテンに就任しました。まずは今季にかける意気込みを聞かせてください。
檜垣: 何より自分に妥協しないことが大切だと思っています。キャプテンとして何かをするというより、周りの選手が自分の姿を見て、感じ取ってくれればいいなと考えています。

二宮: マンダリンパイレーツは3年間でまだ1度も優勝がありません。愛媛のファンもそろそろという思いが強いですよ。
檜垣: それはもちろん感じています。ファンの方からだけでなく、監督、コーチからも「今年は選手も大幅に入れ替わった。生まれ変わって優勝するんだ」という話が常に出ています。

二宮: 昨年の成績をあらためて振り返ると打率.309(リーグ5位)、6本塁打、51打点(リーグ2位)。檜垣選手自身の評価は?
檜垣: 充分、満足できる数字ですね。高校、大学だと短期間で結果を出さなくてはいけない。でも、このリーグでは90試合の中で結果を残せばいいと、気分的に楽に臨めたことが良かったのかなと。リーグ戦で何度も同じ投手と対戦して慣れた面も大きかったですね。

二宮: 普通は短期間で結果を出しても、長丁場になると数字が落ちてくる選手のほうが多いものです。檜垣選手はプロ向きなのかもしれませんね。
檜垣: 良く言えば、そうなんですかね(笑)。体力面では劣っていないと思います。ただ、4、5月はすごく調子が良かった一方で、夏場に入って連戦が続いた時期に結果が出なくなったので、その点は今年の課題です。

二宮: 野球を始めたきっかけは?
檜垣: 隣に住んでいたお兄ちゃんが連れて行ってくれたことがはじまりですね。僕は全然、野球に興味はなかったんですけど、気がついたらチームに入っていました。

二宮: それで高校は強豪の今治西に入学します。今治西はこの春も甲子園に出場しましたが、檜垣選手は甲子園の経験は?
檜垣: 僕の代は出られなかったんです。3年生の夏は、鎌倉(健、元北海道日本ハム)がエースだった川之江が出場して、2年生の夏は阿部健太(阪神)のいた松山商業が甲子園に出ました。

二宮: 鎌倉や阿部健太と対戦したことはありますか?
檜垣: 阿部健太とはありませんが、鎌倉とは対戦しました。2年生の時は背が高いというイメージだけで、すごいなという印象はなかった。ストレートも120キロ台だったと思います。ところが一冬越えると見違えるように良くなっていました。高3の夏は本当に手も足も出ない感じでした。

二宮: 確か、その年の今治西は松下圭太(元阪神)が4番を打っていた三瓶に敗れて、甲子園への夢を断たれました。でも、出場した川之江は甲子園でベスト4に進出しました。鎌倉の活躍をテレビで見て、どんな気持ちでしたか?
檜垣: 実は、悔しいのとショックとで、テレビで甲子園は見ていないんです。次の年は後輩たちが甲子園に出場したんですが、それでもあまり見る気がしませんでした。ようやく、まともに甲子園の中継が見られるようになったのは大学の終わり頃でしたね。

二宮: でもプロに行った同級生の動向は気になったでしょう。
檜垣: そうですね。特に鎌倉は同じ愛媛出身で同級生、しかも対戦経験がある。3年目に先発で7勝をあげたときは、うれしいようでうれしくないような複雑な心境でした(笑)。

二宮: その後、専修大に進学しますが、大学時代の成績は?
檜垣: 1、2年生の頃は代打などで出場機会があったんですが、3年生になると、あまり試合に出られなくなりました。これといった数字は残していないですね。どこか燃え尽きないままに、大学を卒業しました。

二宮: それでアイランドリーグに挑戦したと?
檜垣: はい。まだ野球を続けたいという気持ちが強かったんです。社会人チームのセレクションも全部落ちてしまったこともあって、地元に戻ってプレーしようと。これが最後のチャンスだという気持ちでした。

二宮: 選手としての月給はいくらですか?
檜垣: 約10万円です。ただ、野球をやってお金がもらえるというのは、このリーグとNPBくらいしかない。そう考えると本当に幸せなことです。

二宮: アイランドリーグの選手たちは全員がNPBを目指して、プレーしています。高校、大学時代とレベルの差を感じましたか?
檜垣: 技術的には、大きな差はありませんが、意識面がアマチュアとは違いますね。やはり、みんなが「NPBに行くんだ」という強い気持ちを持っています。
 試合や練習はもちろん、全体練習後も各自で弱い部分を克服しようと、トレーニングをしています。そんな姿を見て、自分ももっと練習しなければという気持ちになりました。

二宮: ただ、トライアウトは不合格で最初は育成選手としての採用だったんですよね。
檜垣: 給料はなくて、選手契約を結んでくれるかどうかも分からない。両親には「1年間、迷惑かけるかもしれない」と伝えました。親からは「やりたいようにやりなさい」と言われました。
 そのまま1年間、選手契約をされなければ、もう野球を諦めていたと思います。でも、すぐに選手登録をされて、自分の野球人生がガラッと変わりました。

(第2回につづく)

<檜垣浩太(ひがき・こうた)プロフィール>
1984年4月26日、愛媛県今治市出身。左投左打の内野手。今治西高時代は2年時より中軸を任される。専修大を経て、07年度のアイランドリーグのトライアウトを受けるも不合格。愛媛に無給の育成選手として入団する。キャンプでアピールし、2月に選手契約。4月度に打率.412の好成績を残し、月間MVPに輝く。リーグ1年目の成績は全90試合に出場して打率.309、6本塁打、51打点。三塁手のベストナインを獲得した。今季はショートに挑戦し、4番の重責を荷う。背番号は26。



<このインタビューはテレビ愛媛で放送された「夢をいつか… 〜愛媛からNPB目指す選手たち 二宮清純アイランドリーグを語る〜」の番組内容を再構成したものです>


◎バックナンバーはこちらから