法政大学は小松剛が神宮デビューし、優勝投手となった2006年春以来、3季連続で優勝を逃している。小松自身の成績は06年秋1勝4敗、07年春2勝3敗、07年秋2勝2敗。06年春は1点台だった防御率はいずれも3点台と満足のいく成績を残すことができていない。
「もう一度、優勝したい」
 最終学年を迎える小松に残されたチャンスはあと2回だ。

 2年春、3勝0敗、防御率1.80という好成績を残した小松は当然、周囲からも次期エースとして注目されるようになった。“失うものは何もなかった”2年春とは違い、“勝たなければいけない”というプレッシャーを感じてしまうのも無理はなかった。それは次期エースとしての責任感でもあったのだろう。特にランナーを背負った場面では、プレッシャーが重くのしかかった。決め球のストレートが高めに浮き、痛打されることもしばしばだった。

 だが、納得のいく成績をあげることができなかった原因はプレッシャーばかりではなかった。
「2年の春は、相手にくってかかるようなハングリーさがありました。でも、秋以降はそういうがむしゃらさがなくなっていました。“自分が抑えなければ”という気持ちばかりが先走って、チャレンジする気持ちが欠けていたんです。だから、練習の時もそれほど自分を追い込んでやっていませんでした。練習不足が自信のなさにもつながったのだと思います」

 今でも母校の室戸高校で野球部を指導している横川恒雄監督も同じように感じていたようだ。
「大学に入学して、これまで一生懸命努力してきたんだと思います。だから、今の彼があるのでしょう。でも、素直な性格が邪魔をして相手に立ち向かっていくハングリーさに欠けているように見えるんです。この先、プロで活躍するためにももっとやんちゃになるべきです。“オレの球を打ってみろ!”という気持ちをぶつけてほしいですね」

 小松の活躍を待ち望んでいるのは横川監督ばかりではない。小学校時代からの親友で共に甲子園を目指した升田大介もまた、エールを送る。
「剛のことは常にチェックしていますよ。時々、電話でも話すんですけど、やっぱり剛が活躍すると、嬉しいですね。僕の家族も僕以上に喜んでるんです。剛の魅力はなんといっても、真っすぐです。それがあったからこそ、今の彼がある。だから、これからも真っすぐでグイグイ押していくピッチングをしてもらいたいですね」

 現在、法政大学野球部はキャンプを終え、社会人チームや他大学リーグのチームとのオープン戦を重ねている。4月12日には六大学野球春季リーグが開幕する。法政の初戦は19日、立教大学との対戦だ。先発はもちろん、エースの小松だろう。
「今シーズンの目標は、登板した全試合で勝つこと。各大学から1勝ずつ挙げたいですね。それがチームの優勝へとつながると思っています」と小松は抱負を語った。
(写真:実質、投手陣で残っている4年生は小松(左)と堀のみ。練習では2人で投手陣を盛り立てる)

 最大のライバルは06年秋、07年春と連覇した早稲田大学だ。
「早稲田を倒すのはうちしかない」
 年初の挨拶での金光興二監督の言葉は、選手たちを鼓舞した。

 実は、早稲田には小松も苦い経験がある。06年10月15日、秋季リーグ第6週。法政は早稲田との第2戦に臨んだ。前日の第1戦に勝った早稲田は優勝に王手をかけていた。先発の小松は2回まで無失点に抑えていたが、3回裏、ソロホームランで先制されると、さらに連続タイムリーを許し、この回一挙に4点を失う。結局、小松は4回でマウンドを降りた。6、7回にも1点ずつを奪われ、早稲田のリードは6点となった。

 法政は、最終回に押し出しで1点を返すのが精一杯だった。最後の打者の打球がライトのグラブに収まった瞬間、早稲田の3季ぶり38度目の優勝が決まった。マウンド上では歓声とともに、早稲田・応武篤良監督の胴上げが始まった。
 小松はその光景をチームメイトとともにベンチから見ていた。その時の悔しい思いは今でも忘れてはいない。

「年中夢求」「不動心」
 小松の好きな言葉だ。
「『年中夢求』は大学入学以来、ずっとお世話になっている整体師の先生の言葉なんです。夢を求める気持ち、つまり常に上を目指すことが大事だということ意味しています。
『不動心』という言葉は昔から好きですね。今、はっきりとした目標があるので、ぶれずにしっかりとした芯の強さをもって、練習や試合に臨みたいと思っています」

 今やプロからも注目され、今秋のドラフト上位指名候補にも名前があがっている。プロ入りが実現すれば、室戸高OBとしては1957年に阪神に入団した久保友之氏以来2人目だ。

 小松は4季ぶりの優勝、春秋連覇、そしてプロへ――小松剛はこれからも不動心で夢を追い求めていく。

(おわり)


<小松剛(こまつ・たけし)プロフィール>
1986年9月26日、高知県高知市出身。小学3年に室戸市に転居し、友人の影響で野球を始める。小学5年から投手となり、高校は地元の室戸高校に進学。3年時にはエースで主将を務める。法政大学では2年春にリーグ戦デビューを果たすと、3勝をマーク。優勝のかかった大一番にはリーグ戦初完投で胴上げ投手となった。リーグ戦通算8勝9敗。今秋ドラフトの上位指名候補選手としてプロからも注目されている。180センチ、80キロ。右投右打。











(斎藤寿子)
◎バックナンバーはこちらから