FIFAワールドカップの総収入は放映権料、公式スポンサー料、チケット販売料を含め2200億円にのぼる巨大イベントである。その総本山であるスイス・チューリヒのFIFAハウスでは権力の座をめぐる暗闇が続いている。
 FIFAについて語ることは、それは6期24年にわたってこの巨大な組織を支配し続けた前代表のジョアン・アベランジェについて語ることと同義である。「サッカーは、全世界で2500億ドルを稼ぎ出す。ゼネラルモーターズでさえも、1700億ドルだというのに、だ」。アベランジェのサッカーへの揺るぎない自信がこの言葉の中には凝縮されている。
 アベランジェといえば、忘れられないのが2002年W杯の開催国を決める際の言動だ。当初は「共催」に反対していた独裁者が最後の理事会では真っ先に共催案を口にした。欧州の理事たちに追い詰められていた独裁者はルールをねじ曲げてまでも自らの身を守った。権力への執着は老いても微塵も衰えることはなかった。
 本書はFIFA内外のキイパーソンを丹念に取材することでW杯ビジネスのインサイドに鋭く切り込むことに成功した力作である。 「W杯ビジネス30年戦争」(田崎健太著・新潮社・1500円)


 2冊目は「日本海海戦とメディア」(木村勲著・講談社選書・1600円)。日本海海戦といえば、有名な東郷平八郎の「敵前大回頭」を思い出す。本書はこれまで解読されなかった第一級史料『極秘海戦史』を基に、この伝説を覆す。


 3冊目は「泣き虫しょったんの奇跡」(瀬川晶司著・講談社・1500円)。61年ぶりのプロ編入試験に合格して棋士の夢叶えた男の自伝。無気力だった少年が死を考えるほどの挫折を乗り越え奇跡を起こすまでの物語は、爽やかに泣けて勇気が出る。

<この原稿は2006年6月14日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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