楽天球団が新規参入する以前、パ・リーグの球団は「赤字が当たり前」と言われていた。30億〜40億円の赤字を親会社が宣伝・広告費として補填するのが常だった。
 球界に経営者らしい経営者はいなかった。球団社長、球団代表とはいっても、ほとんどが親会社からの出向で野球に対する知識も愛情も持ち合わせてはいない。
「別にやりたくてやっているわけじゃないんだ。本当はゴルフのほうが好きなんだよ」。こう嘯(うそぶ)いた球団トップもいた。2年前に吹き荒れた縮小再編の嵐は、私に言わせれば“人災”だった。
 ところが最近、“赤字自慢”をする球団トップがめっきり減った。新参者の楽天が初年度、いきなり2億4千万円の黒字を計上したからだ。経営のトップに立つ著者は成功の秘訣について、こう書く。
<何か特別なことをしたわけではなく、私はただ一般的なビジネスを行っただけなのです>。
 逆説的にいえば、これまでの球界がいかに旧来型で硬直した経営を行ってきたかということの証左でもある。親会社の広告塔から自立したエンターテインメントビジネスへ――。スポーツビジネスの未来が暗示されている。 「本質眼 楽天イーグルス、黒字化への軌跡」(島田亨著・アメーバブックス社・1500円)


 2冊目は「若者殺しの時代」(堀井憲一郎著・講談社現代新書・700円)。「若者」が得した時代は80年代に終わった。著者が実体験に基づいてつづった時代論。考証に使われるディズニーランドや月9ドラマの変遷のデータもユニーク。


 3冊目は「仕事力」(朝日新聞社広告局編著・朝日新聞社・1400円)。「(仕事を選んだからには)勉強し、努力し、走らなければならない」(羽生善治)。各界で活躍する15人の仕事観。若者のみならず、全ての悩める人の背中を押してくれる。

<この原稿は2006年8月16日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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