スコットランドのセルティックで活躍する中村俊輔といえば、自他共に認めるフリーキックの名手である。2006-07欧州チャンピオンズリーグのマンチェスター・ユナイテッド戦(06年11月21日)、敵地オールド・トラフォードで決めた約30メートルの直接フリーキックは今も語り草だ。

 あまり知られていないことだが、俊輔はここぞという場面ではコーナーキックの際にコーナーまで猛ダッシュを見せる。これは名古屋時代のピクシーことドラガン・ストイコビッチ(現名古屋監督)の姿を見て触発されたのだという。

「ピクシーはコーナーキックのとき、コーナーまで全力で走ることによって、味方を鼓舞しているんです。絶対にここで点を獲るぞってね」

 確かにそうだった。ピクシーはゲームの終盤、1点を追う展開で味方がバテていたりすると、士気を鼓舞するようにコーナーまでものすごい勢いで駆けた。最初は敵の守備陣形が整わないうちに蹴りたいのだろうと思っていたが、それだけではなかった。ピクシーはたった一つの動作で“無言のリーダーシップ”を発揮していたのである。

 同じことはメジャーリーグきってのリードオフマン、イチロー(マリナーズ)についてもいえる。一昨年の春、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)出場に向け、王ジャパンがアリゾナでキャンプを張ったときのことだ。

 誰もが目を見張ったのが、イチローの守備位置(ライト)への全力疾走だった。この動作を目の当たりにした若手たちは「イチローさんは本気で世界一になりたいと思っているんだ」と実感し、自分たちに課せられたミッションを再確認したという。北海道日本ハムの稲葉篤紀も守備位置への全力疾走で後輩たちを牽引する。

 言葉だけがリーダーシップの発現ではない。動作一つで味方の士気を鼓舞し、戦闘モードを演出する――これも立派なリーダーシップである。

(この原稿は『週刊ダイヤモンド』08年2月9日号に掲載されました)

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