第40回 強気の内角攻めこそ “藪スタイル”だ!

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 野球の醍醐味は若手のハツラツしたプレーだけではありません。長く経験を積み重ね、熟練の技を見せてくれるベテランの味のあるプレーもまた、観客を魅了してくれます。
 12日、金本知憲(阪神)選手が史上37人目となる2000本安打を達成しました。40歳での到達は中日の落合博満監督(41歳4カ月)、福岡ソフトバンク新井宏昌コーチ(40歳2カ月)に次いで3番目の高齢記録。彼ならまだまだ活躍できるでしょうね。
 さて、米国でも今年不惑の年を迎えたベテランが頑張っています。藪恵壹投手と野茂英雄投手です。両投手ともに今季は招待選手としてメジャーのキャンプに参加し、藪投手は開幕から、野茂投手は4月5日(現地時間)にメジャー昇格を果たしました。どちらもメジャーのマウンドに立ったのは3年ぶりのこと。苦労の末に掴んだメジャー復帰だっただけに、私にとっても感慨深いものがありました。

 オープン戦では9試合で15回1/3を投げた藪投手は7失点、防御率4.11という成績でしたが、故障者続出のチーム状態もあって、開幕ベンチ枠25人に滑り込みました。開幕戦から登板機会を与えられ、14日のアリゾナ・ダイヤモンドバックス戦では6、7回の2イニングを1安打無失点。チームも7回裏に藪投手の代打で出場した打者から打線がつながり逆転に成功し、藪投手に3年ぶりの勝ち星がつきました。

 彼は昨年は所属先が決まらず、1年間野球をすることできませんでした。にもかかわらず、これだけの成績(24日現在、9試合13回1/3を投げ、2勝1敗、防御率2.70)を挙げられるのは、浪人生活の間にもしっかりとトレーニングを積んできたからに他なりません。

 見たところ、3年前よりも下半身が大きくなっているような気がします。もともとコントロールのいい投手でしたが、ますます安定感に磨きがかかっています。普通は腕をしっかりと振らなければ、ボールには力が伝わりません。しかし、フォームのバランスがいい藪は力んで腕を振らなくても、力強いボールを放ることができます。日本の選手で言えば、ダルビッシュ有(北海道日本ハム)や岩隈久志(東北楽天)がそうです。

 藪投手はどんな強打者にも臆することなく、内角を攻めることができるのが強み。ストレートを軸にスライダー、シュート、フォークと、配球のバリエーションも多く、どの球種でも内角を突くことができます。また、ケガにも強く、これまで肩やヒジなど大きな故障を抱えたことがありません。

 現在は主力投手の故障によって、藪の昇格、降格が決められています。今後、メジャーに居座り続けるには、やはり首脳陣に「藪がいなければチームは成り立たない」と思わせなければなりません。

 そのためには何が必要か。カギを握るのは藪の最大の強みである内角への攻めの投球ができるかどうかでしょう。メジャーのストライクゾーンは日本と比べると、外角に甘く、内角に厳しい。ですから、球審は内角へのボールをなかなかストライクに取ってくれません。しかし、だからと言って、自分の投球スタイルを変えてしまっては勝つことはできません。3年前にオークランド・アスレチックスを解雇された時の藪投手がそうでした。

 最初はストライクに取ってもらえなくても、内角を攻め続け、球審にも意識させることが必要なのです。そして、球審に自らのコントロールの良さをアピールしていくこと。そうすれば、多少時間を要するかもしれませんが、球審はストライクを取ってくれるようになります。ストライクと判定されれば、バッターは意識せざるを得ませんから、今度は外角のボールが生きてくるのです。

 ジャイアンツの首脳陣にはもちろんですが、球審や相手バッターに対しても自信をもって「藪という投手はこうだ!」と自分をどんどんぶつけていってほしいですね。それが確立すれば、さらに活躍できるのではないかと思います。

 野茂はこんなものではない!

 さて、心配なのは野茂投手です。メジャー昇格後、3試合に登板し4回1/3を投げた野茂投手は3本塁打を含む10安打9失点、防御率18.69という成績で、20日に戦力外通告を言い渡されました。苦しいリハビリを経て、ようやく戻ることができたメジャーのマウンドだっただけに、自身も非常に悔しい思いをしていることでしょう。私も、戦力外のニュースを聞いた時は、本当にショックでした。

 私個人としては、この戦力外通告には納得していません。もちろん、数字だけを見れば仕方のないことかもしれませんが、内容はそれほど悪いものではありませんでした。加えて、徐々に調子を上げていた矢先のことだったからです。ストレートのスピード一つ取っても、そうです。右ヒジの手術前は130キロ台前半しか出ませんでしたが、最近では140キロ近くまで上がっています。

 もう少し体を絞り、動きのキレを戻せば、フォークの落ちも今より数段よくなるはずです。そうすれば、野茂投手は三振を取ることができる。彼を買っていたトレイ・ヒルマンもそれを望んでいたはずです。つまり、今の野茂はまだ実力を出し切っていない状態なのです。

 実力があっても出せなければ解雇されるのがプロの世界。ですから、ロイヤルズが野茂を戦力外としてみなしたのも理解はできます。しかし、ボストン・レッドソックスやニューヨーク・ヤンキースのような常勝軍団と比べれば、勝利へのプレッシャーがない分、もう少し野茂投手を試す余裕はあったのではないかなと思うのです。

 今のところ、トレードに興味を示す球団はありませんので、今後は解雇ウエーバーにかけられ自由契約となる可能性が極めて高いと言えるでしょう。そこで、どんな条件でも契約を結んでくれる球団があるかどうか。こればかりはわかりませんが、メジャーの多くは投手、特にロングリリーフを任せられる中継ぎが不足している状態。ですから、日本では引退がささやかれていますが、可能性はないわけではないのです。

 野茂投手はこれまで一度たりともトレーニングを怠ったことはありません。いつも黙々と努力し続けてきました。私はそんな彼を尊敬していますし、これからも応援していきたいと思っています。そして、「まだ野茂はやれる」。そう信じています!
 

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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