今年のプロ野球のキャンプでは、中田翔(北海道日本ハム)、佐藤由規(東京ヤクルト)、大場翔太(福岡ソフトバンク)などの新人選手が一躍注目を浴び、マスコミをにぎわせていましたね。若い彼らが今後、どんな活躍を見せてくれるのか、僕も非常に楽しみです。
 一方でベテラン選手の活躍は、プロ野球ファンのみならず、さまざまな人たちを勇気づけてくれています。投手でいえば、工藤公康投手(横浜)、下柳剛投手(阪神)、山本昌投手(中日)の3人がその代表格といえるでしょう。

 今年45歳になる工藤投手は現役では球界最年長投手です。そしてプロ27年は野村克也監督(東北楽天)を抜いてプロ野球史上最長。それでも昨季も先発ローテーション入りを果たし、若手が多い横浜でチーム4位の7勝(8敗)を挙げられるのですから、本当に偉大な投手です。

 では、なぜ45歳にしてなお活躍することができるのでしょうか。最大の理由は、変化のつけ方の巧妙さにあります。普通、「緩急をつける」というと、例えば140キロのストレートと110キロのカーブとで30キロの差をつけるわけです。つまり、速い球種と遅い球種によって緩急をつけようとします。

 しかし、工藤投手の場合は同じ球種で緩急をつけることができるのです。例えば140キロ台半ばのストレートと130キロ台前半のストレート。わずか10キロと思うかもしれませんが、バッターにとってはこの10キロの違いが大きいのです。ましてや、工藤投手は多彩な変化球を持ち合わせていますから、豊富なバリエーションで配球を組み立てることができます。そのためバッターにとっては、非常に的が絞りにくいわけです。

 また、工藤投手が変化をつけるのは何もボールのスピードだけではありません。時にはクイックモーションで投げたり、ゆったりと大きなモーションで投げたりと、投げ出しの緩急をもつけています。こうした長年の経験から培われた創意工夫が工藤投手を支えているのです。

 その工藤投手は昨年10月、左ヒジの手術しました。キャンプ前は回復具合が懸念されましたが、オープン戦を見る限り、順調に仕上がっているようですので、今季も活躍してくれることでしょう。

 あえて言えば、例年通りのスタミナがあるかどうか。手術後、一定期間はリハビリにあてなければいけませんでしたので、その分、例年よりもランニングなど下半身強化の時間が取れなかったとしたら、少し心配ですね。

 というのも、どんな手術であれ、メスを入れるということ自体、体に負担をかけているわけですから、シーズンに入ってから例年より早く疲労が出てしまうことも考えられます。45歳という年齢を考えれば、疲労回復には多少時間がかかることは否めません。ですから、今季はスタミナの面で少し苦労するかもしれません。

 しかし、工藤投手のことですから、おそらくそういったことは想定の範囲内でしょう。1年間、ローテーションをしっかりと守るには何が必要かを考え、オフの期間にきっちりとトレーニングしてきているはずです。開幕後、出だしでつまずかなければ、昨年以上の成績をおさめてくれると思います。

 さて、下柳投手ですが、彼は若手時代、それこそストレート一本でグイグイと押す典型的な速球派タイプでした。それが今では“のらりくらり投法”と言われていますが、バッターのタイミングをずらし、打たせて取るピッチングを見せています。

 彼が今のような技巧派になったのは、日本ハムで先発に戻った2000年からです。本人いわく「もう、一辺倒の力勝負では勝てない」と気付き、考えた結果が今の“のらりくらり投法”というわけです。

 昨季、1995年以来、自己最低の2勝(10敗)どまりに終わった山本昌投手は、今季は背水の陣で臨んでいるようです。山本昌投手のよさは、粘り強さにあります。調子が悪くても、どれだけ打たれても、我慢強く低めに投げること。彼はそれができるピッチャーです。

 ところが、昨季は少し打たれると「もう、今日はあかんな」と早い段階で気持ちが切れてしまっていたような気がします。というのも、中日は浅尾拓也投手のような若手がどんどん伸びてきています。ですから、少しでも悪ければ層があつい分、すぐに替えられてしまう。そうしたチーム状況が昨季は山本昌投手には悪いほうに出てしまったのかもしれません。

 しかし、今季は200勝まであと残り7勝に迫っていることもあり、モチベーションは高いはずです。「昨季のようにはならないぞ」という気持ちも持っているでしょうから、今季は山本昌投手らしいピッチングで活躍してくれることでしょう。

 今季も新人のガッツあるプレーはちろん、ベテランならではの奥深いピッチングにも楽しませてもらいたいと思っています。

 
 

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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