昨秋のドラフトで“高校生・ビッグ3”として中田翔(北海道日本ハム)、佐藤由規(東京ヤクルト)とともに注目された唐川侑己(千葉ロッテ)が4月26日に鮮烈デビューを果たしました。7回を投げて3安打無失点で勝ち投手に。その後の2試合も立て続けに白星を重ね、デビューから3戦全勝。キャンプ時にはほとんど注目されていなかった唐川投手ですが、今や押しも押されもしない新人賞候補の一人となっています。
 交流戦開幕となった20日、唐川は4試合目の先発登板として巨人戦に挑みました。勝てば、史上初のデビュー4連勝でしたが、やはりプロの世界はそう甘くはありません。巨人打線に13安打6失点を喫して5回途中での降板。初めてプロの洗礼を浴びました。

 巨人戦での唐川投手が調子を落としていることは一目瞭然でした。疲労だけが理由ではないと思いますが、前の3試合に比べて投球のテンポが悪く、ボールが高めに浮いてしまっていました。強打者揃いの巨人打線がそれを見逃すはずはありません。

 しかし、唐川投手にとってはいい勉強になったことでしょう。高めのボールを打たれたことで、低めへの意識がどれだけ大事かということを改めて認識したと思います。次の試合ではきっちりと修正してくるのではないでしょうか。

 唐川投手のよさといえば、何といっても安定したフォームです。プレート上でブレずにしっかりと立つことができます。これは体のバランスがいいからに他なりません。高校時代、甲子園に出場した唐川投手を見ましたが、その時は身体の線の細い投手というイメージがありました。しかし、下半身を中心にキャンプでしっかりと鍛えたのでしょう。今の彼にはさほど線の細さは感じません。まさに、トレーニングの賜物ですね。

 25日現在、4試合に登板し、3勝0敗、防御率2.83。なかでも評価すべき点は四球数の少なさです。28回2/3を投げて、四球はわずか1。デビュー2戦目で早くも無四球完投勝利を収めています。これは、フォームに力みがなく、バランスがいい為に、甘くなりやすいストレートの後の変化球が、しっかりとコントロールできているからです。

 一方、唐川投手のデビュー戦の対戦相手となった大卒ルーキー・大場翔太(福岡ソフトバンク)は、せっかく150キロ以上の剛速球を投げても、その後の変化球が甘い。9試合で11本とホームランを多く打たれている原因はそこにあります。足を上げた時に安定しておらず、加えて勢いよく投げようとする余りに力みが生じているため、コントロールが定まっていないのです。18歳で既にその技術を習得している唐川投手。やはり“ビッグ”なだけありますね。

 さて、唐川投手が高校時代から注目されていたのが、腕のしなりがいいこと。これはバランスよく身体を鍛えたからでもありますが、やはり持って生まれた才能でしょう。筋肉が柔らかいので、疲労がたまりにくく、ケガをする可能性も低い。スポーツ選手として本当に恵まれた身体をしていると思います。

 また、ストレートと変化球の腕の振りが同じ軌道を描いているため、打者にとってはやっかいです。これはリリースポイントがきちんと定まっているからなんですね。「どのポイントでボールを放せば、どいうボールがいくのか」ということが頭だけでなく、身体に染み込んでいるのです。

 とまぁ、いろいろと唐川投手の良さを述べてきましたが、最も僕が驚いているのはマウンド度胸の良さです。甘いマスクが売りの唐川投手ですが、マウンド上では実に堂々としています。高校時代の経験豊富さ、本来持っている意志の強さもありますが、何よりここまでしっかりと準備をしてきたことへの自信の表れなのではないかと思います。彼にとっては、キャンプをほとんどマスコミとは無縁の2軍で過ごせたことがプラスの方向に働いているのでしょうね。

 タイプ的にはコンビネーションの巧さでは桑田真澄、フォームのバランスの良さでは三浦大輔(横浜)というところでしょうか。いずれにしろ、将来有望な投手であることは間違いありません。ローテーションを守り続ければ、今でも十分、2ケタは勝てる実力を持っています。たとえ白星が増えなくても、2年目以降の飛躍を考えれば、バレンタイン監督には起用し続けてもらいたいなと願っています。

 

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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