今月は韓国のソウルでドジャース対パドレスの開幕戦を含む、2試合が行なわれました。うれしいことにこの2試合には多くのアジア人が出場しました。彼らの出来を振り返りましょう。

 

 存在感抜群のダルビッシュ

 

 パドレスの開幕投手を務めたのはダルビッシュ有でした。侍ジャパンでも彼はリーダー役を担っていましたが、パドレスでもチームリーダーとしての存在感は抜群です。チームのみんなが彼を敬っているのは見れば明らかでした。75球を上限にしていたようなので、この日は3回2/3、72球を投げてマウンドをおりました。満塁のピンチではバッターを三振に切って取り雄叫びを上げたシーンは鳥肌が立ちました。絶好調ではないもののそこそこ球は走っていたし、まずますのコンディションに持ってくるあたりはさすがベテランです。MLBの本格稼働は28日(金)以降です。韓国シリーズに合わせすぎても後々、調子を崩すことが考えられます。“そこそこに合わせる”塩梅が経験のなせる業です。

 

 今季からダルビッシュのチームメイトとなった松井裕樹は中継ぎとして2試合に登板。どちらもリードの場面での登板ですから、首脳陣から期待されているのでしょう。対戦相手が左バッターの時にマウンドにあがりますが、右バッターへのフォークとスライダーがうまく決まっているように見えました。右打者でも抑えそうな気がします。

 

 パドレスにはキム・ハソンというショートを守る韓国人選手がいます。「韓国・ソウルでメジャーリーグ開幕を迎えられてうれしい。自分も含め、アジア人がメジャーリーグ開幕戦に何人も名を連ねることはアジア野球の発展につながるはず」という彼のコメントに感銘を受けました。“若いのに人間的にしっかりしているなぁ”と。守備も素晴らしい。バックハンドの対応も見事だし、「次、どう動くのか」という読み、反応はピカイチでした。キムが本格的にショートで使われるようになったパドレスを見られるのが、私も楽しみです。

 

 ドジャースの内野守備

 

 一方、ドジャースの内野守備は少々、お粗末でした。二遊間のコンビが悪いといいますか……。トスプレーにしてもショートゴロでセカンドにトスする場合、足を運んで相棒のグラブに入れてあげるくらいの気持ちでトスすることが大切です。しかし、ドジャースの二遊間はトスがゆるかったり、低かったり、そもそもタイミングが合っていなかったり。まだ開幕して2戦目だから、フィーリングが合ってないだけならまだいいのですが、これなら巨人の吉川尚輝-門脇誠の二遊間の方が“コンビ”としては成熟しているかなと思います。

 

 ドジャースのサード、マックス・マンシーの守備が気がかりです。マンシーは2018年以降、35本塁打以上を4度記録している強打者です。しかし、2戦目の初回、山本由伸が3失点してなおも二死二塁の場面。打球は三塁線に転がりました。これを逆シングルでマンシーが反応しましたが、白球はグラブの下を通過し、ランナー生還を許しました。打力を評価されている選手なのは承知していますが、あのプレーにはがっかり。ドジャースともあろう球団なら、ほかに生きのいい若手がいそうです。

 

 もちろん、山本自身の出来もよくなかった。ピッチクロックの影響があったかもしれません。山本は本来、テンポよく投げ、クイックで投げたりするのでピッチクロックに対応しやすいタイプだと思っていましたが、実際タイムをはかられると焦りはあるでしょう。こればかりは慣れが必要でしょう。ストライクとボールがはっきりし過ぎたことも致命的でした。次は早くも正念場ですから、もう一度立て直してもらいましょう。

 

 今季の大谷は走り屋のリード

 

 大谷翔平は2試合とも2番・DHでした。10打数3安打2打点1盗塁。練習試合では高めのボール球を力んでスイングし、バットのヘッドが潜って空振り三振をする場面が2度ほどありました。当然、ダルビッシュも初球、インハイにズバッと投げ、アウトコースの変化球でショートゴロに打ち取りました。迎えた大谷の2打席目、インコース高め、ボール球でしたがバチーンと打ってライト前に運びました。このあたりに、大谷の修正力の高さを感じます。

 

 今季は打者専念の大谷、出塁時のリードに変化があります。昨年まで、一塁ベースと二塁ベースを結んだ線上に両足を置いていました。今季は右足をスパイク一足分と少し、後ろ(ライト方向)に置いています。二塁方向に体を開き気味にリードを取っているのです。こうすると走り出した時の一歩目(左足)がピタリと(一塁ベースと二塁ベースを結んだ)線上に来ます。線上に足を平行に置いたときよりも、20センチくらい距離を短縮できます。盗塁は二塁ベース上で「コンマ何秒」を争います。この20センチが塁上のアウトとセーフを大きく分けるのです。

 

 リード時の体の角度から見ても、今季の大谷は盗塁への意識の高さを感じます。ファンは40-40(40本塁打、40盗塁)を期待していますがこのリードを見るに、大谷自身は50-50を狙っているのかもしれませんね。

 

<鈴木康友(すずき・やすとも)プロフィール>
1959年7月6日、奈良県出身。天理高では大型ショートとして鳴らし甲子園に4度出場。早稲田大学への進学が内定していたが、77年秋のドラフトで巨人が5位指名。長嶋茂雄監督(当時)が直接、説得に乗り出し、その熱意に打たれてプロ入りを決意。5年目の82年から一軍に定着し、内野のユーティリティプレーヤーとして活躍。その後、西武、中日に移籍し、90年シーズン途中に再び西武へ。92年に現役引退。その後、西武、巨人、オリックスのコーチに就任。05年より茨城ゴールデンゴールズでコーチ、07年、BCリーグ・富山の初代監督を務めた。10年~11年は埼玉西武、12年~14年は東北楽天、15年~16年は福岡ソフトバンクでコーチ。17年、四国アイランドリーグplus徳島の野手コーチを務め、独立リーグ日本一に輝いた。同年夏、血液の難病・骨髄異形成症候群と診断され、徳島を退団後に治療に専念。臍帯血移植などを受け、経過も良好。18年秋に医師から仕事の再開を許可された。18年10月から立教新座高(埼玉)の野球部臨時コーチを務める。NPBでは選手、コーチとしてリーグ優勝14回、日本一に7度輝いている。19年6月に開始したTwitter(@Yasutomo_76)も絶賛つぶやき中。2021年4月、東京五輪2020の聖火ランナー(奈良県)を務め、無事"完走"を果たした。


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