(写真:試合後記念撮影をするcross crosse選抜男子とPLL All Stars)

 3月20日、ラクロスの国際交流試合『レモンガスSEKAI CROSSE2024』が神奈川・富士通スタジアム川崎で行われた。同イベントはラクロスの第一人者・山田幸代氏が代表を務め、2017年にスタートした。コロナ禍の20年から22年までの休止期間を挟み、5回目の開催となった。2日前の18日には、東京・大井ホッケー競技場でラクロスクリニックも実施した。

 

 春分の日に開催された『SEKAI CROSSE』は風が強く、突然の雨、雷に遭いながらも開始時刻を遅らせるなどして無事幕を閉じた。

 

(写真:女子はあわや勝利というところまで、アメリカのUnleashed All Starsを追い詰めた)

『SEKAI CROSSE』は、“世界”との距離を測る格好の舞台だ。『WORLD CROSSE』時代には、この大会を期に国外のクラブに飛び込み、プロプレーヤーになった者もいる。山田代表は今大会から名称を『WORLD』から『SEKAI』に変えた理由を、こう説明する。

「ラクロスというコンテンツを通じ、それぞれがどう思い、どう成長させていくか。スポーツの成長にどう携わっていくかは、それぞれ違うと思っています。見たり、支えたり、プレーしたり。いろいろな視点、力を借りながら、世界に打ち出していきたいですし、この大会に関わった人が世界に出ていくような人に成長して欲しいです。この大会をグローバルにしていくためにも『WORLD CROSSE』から日本らしさを出すために『SEKAI CROSSE』という名前にしました」

 

(写真:女子のMVPに輝いたゴーリーの川村〈右〉)

 日本チーム(cross crosse選抜)に入るためには選考会を通過しなければいけなかった。cross crosse選抜女子の藤井真由(NeO)によれば、100人近くの選手が参加したという。そこから選抜された日本チームが女子はUnleashed All Stars、男子はPLL All Starsと、それぞれアメリカのプロリーグからの特別編成チームと対戦した。結果は女子が15-15でドロー、男子が5-8で敗戦。どちらも序盤リードする展開ながら、女子は追いつかれ、男子は逆転された。それでも女子は当時・東海大学4年の川村茉央(現・MISTRAL)、男子は同Stealersの大嶋省吾(現・Grizzlies)といずれも好セーブを連発したゴーリーがMVPに輝いた。

 

(写真:日本代表にも選ばれている藤井〈10〉も『SEKAI CROSSE』初出場)

 前身の大会を含め初の『SEKAI CROSSE』出場となった川村は「楽しくラクロスができました。世界の選手とラクロスするのが初めてだったので緊張が勝っていたんですが、いざコートに立ってみると、“最強軍団”と戦えるという事実がうれしくて楽しめた」とゲームを振り返り、こう続けた。

「(日本選手とアメリカ選手の違いは)クロスのボールが入っている部分が見えない。身体から遠いところから扱ってシュートを打ってくるので、どの角度から飛んでくるかわからなかった」

 この日3得点を挙げる活躍を見せた藤井も『SEKAI CROSSE』の意義を「すごくいい機会でありがたいです。日本代表でもなかなか海外の選手と戦えることがない。世界大会は4年に1度しかありません。アメリカの選手が日本に来てくれることは、プレーヤーもそうですが、試合を観ている学生たちにとっても刺激を受けると思います」と口にする。

 

(写真:試合には敗れたものの、好セーブを見せてMVPに選出された大嶋〈中央〉)

 5年ぶり2度目のMVP受賞となった大嶋は「“自分がどこまできるか”を試せる、現在地を知る貴重な機会。幸さん(山田代表)をはじめ、この大会成立に尽力していただいた方たちに感謝しています」と大会への思いを語ったが、「負けてMVPというのは変な感じですね」と正直な胸の内も明かした。

「自分は2019年にも負けてMVPをもらいました。その時と今回とでは抱いた感情が違う。当時の自分は代表に入るか入らないかという時期で、世界と戦った経験がありませんでした。だから負けたけど“自分が通用して良かったな”と感じた。だけど、いつまでも“いい勝負をした”“通用した”で喜んでいるフェーズじゃない。自分があと3、4点止めて、チームを勝たせる選手にならないといけないし、全体としてもチームを勝たせる選手が出てこないといけません。“MVPを取って満足”していてはダメだと思っています」

 

(写真:男子MVPの大嶋〈右〉を祝福する山田代表)

 選手、観客が“世界”を体感するこの大会。現役大学生が運営に関わり、実行委員を務めるのも特徴だ。「9月にキックオフしてから、学生が100人以上、力を貸してくれて、実行委員として準備をしてくれた。彼ら、彼女らの努力がなければ大会はできなかった。そこは彼らの自信にしてもらいたい」と山田代表も胸を張る。

「私が学生たちから学ぶことも多かった。実行委員として関わってくれたみんなが、日々成長していくのを感じていました。将来、素晴らしい社会人になってくれる、と期待しています」

 大会中、山田代表が会場中を歩き回り、運営関係者を見つけると「お疲れ様」「ありがとうね」などと積極的にコミュニケーションを取っていたのが印象に残った。

「寒い中頑張ってくれていましたから。協力をしてくれている人たちに声を掛けることが毎回の自分のルーティンになっています」

 

(写真:“格闘技”とも評される激しいコンタクトも競技の魅力だ)

 20日の試合には2100人を超える観客が富士通スタジアム川崎に集まった。「思った以上にたくさんの方が観に来てくれた。その中でラクロスできたことはうれしいです」とは川村。主催者の山田代表も「正直、お客さんがどこまで入ってくれるか不安だった。まだラクロスはコアなファンが多く、ライト層にどうアプローチしていくかは課題だと感じています。でも来ていただいた方に『楽しかった』と言っていただけたので、それは本当に良かった」と語った。

 

(写真:選考会を勝ち抜いたcross crosse選抜女子)

 28年ロサンゼルスオリンピックの追加競技種目に採用され、120年ぶりにオリンピックに帰ってくるラクロス。今年1月の全日本選手権(神奈川・横浜スタジアム)には6000人を超える観客が集まった。今が上昇気流に乗るチャンス。これを逃す手はないだろう。選手に想いを聞いた。

「ラクロスを知らない方に興味を持ってもらいたい。今から始めてもオリンピックを目指せるということも魅力。オリンピックをきっかけにラクロスを始めてくれる人が増えたらうれしいです。また今年から新しいチームができるという話も聞いています。そういう新しいチームができることはうれしいですし、(オリンピック種目の)6人制の大会も増えれば面白いと思っています」(藤井)

「ラクロスはまだマイナースポーツと言われています。メダルを狙っていけば、オリンピックをきっかけに多くの人に知ってもらえる。もっとみんなに知ってもらい、たくさんの人にオリンピックでも見てもらいたいです」(川村)

「いつかラクロスだけで食べていけるような環境になって欲しい。日本のラクロスがレベルアップしていくためにも、プロリーグができるほど競技人口が広がり、注目度が高まっていけばうれしいです」(大嶋)

 

(写真:気温は低かったが、男女共に白熱した試合を見せた)

『SEKAI CROSSE』で言えば、発足当初は山田を含め数人しかいなかった実行委員は、100人以上が運営に関わるようになったという。

「ラクロスがオリンピック種目になったことは大きい。ラクロスを観たことない人、観てみたいと思ってくださる人たちにもっと足を運んでもらえるような機会を提供していきたいです。これからもラクロスが飛躍していくために私たちが何ができるかを考えていきます。まずはこの『SEKAI CROSSE』の参加国を増やしていき、サッカーのクラブW杯のようにクラブチャンピオンシップ化していきたい」

 世界と交差する、この線をラクロス界は太く、強固なものにしていきたい。

 

(文・写真/杉浦泰介)