BCリーグが開幕して約3週間が経ちました。今シーズンから参入した福井ミラクルエレファンツは10試合を終え、3勝7敗。北陸地区では同率首位の富山サンダーバーズと石川ミリオンスターズに1.5ゲーム差で最下位に甘んじています。選手一人ひとりを見れば、他チームと比べても力はそう変わりありません。しかし、その実力を試合で出し切れているかどうか。それが成績に表れているのでしょう。
 それでも、徐々に手応えを感じてもいます。試合を積み重ねていくたびに、投手陣の意識が変わってきたこともその一つです。たった一つの四球が試合をガラリと変えてしまうこと。野手がミスをしても、そこから冷静に抑えられるかどうかが大事だということ。そういうことを実戦の中で一つ一つ身を持って知ることで勝利に結びつけられるようになってきました。そのため開幕直後は4連敗を喫するなど、なかなか勝ち星に恵まれませんでしたが、GWには初の連勝を飾ることができました。

 主戦の先発には、速球派の柳川洋平(神奈川・平塚学園高−新日本石油−西多摩クラブ)、変化球主体のソ・グァンユン(韓国)、高卒ルーキーの平谷友佑(福井・若狭高)の3投手を立てています。

 開幕投手を務めた柳川は140キロ超の伸びのあるストレートを武器とする本格派右腕。カーブ、スライダー、チェンジアップ、ナックルと変化球も豊富で、どのボールでもストライクを取ることができます。現在、奪三振数ではリーグ一の32を誇っています。その半面、四球数もリーグ一。加えて失点も5試合で14点と多いのです。ボールカウント2−0や2−1と有利なカウントに追い込んだ際、三振に仕留められず、痛打を浴びるケースが少なくないからです。

 こうした余計な四球や失投を減らすには、どの球種を遊び球にし、どの球種を勝負球にするのかを明確にする必要があります。単にキャッチャーのサイン通りに投げるのではなく、状況判断しながら、自分の頭の中で組み立てを考えるのです。素質は十分にありますから、それさえできるようになれば、柳川の勝ち星はどんどん増えてくると思います。

 韓国人投手のソ・グァンユンですが、彼はストレートに緩いカーブを効果的に織り交ぜ、打たせて取るピッチングが売りです。彼のピッチングの生命線はこの緩いカーブです。カーブが狙い通りのコースに決まっている時はいいのですが、決まらなくなると四球が多くなってしまいます。

 それが露呈したのが11日の群馬ダイヤモンドペガサス戦でした。2回に先頭打者を四球で出すと、その後も制球が定まらず2つの四球と3本の長短打、加えて足でも揺さぶられ、一挙に5点を奪われてしまいました。今後はカーブで勝負できない時にどういうピッチングをするのかが問われてきそうです。

 将来有望な若手・平谷は今年3月に高校を卒業したばかりの18歳。貴重な左腕として先発を担っています。ボールに勢いがあり、変化球のキレも十分にあります。あとはストレートにもう少しスピードがほしいところ。現在は130キロ前半ですが、体ができてくれば徐々にスピードアップされてくるでしょう。将来的には140〜145キロは出せるのではないかと期待しています。

 さて僕自身ですが、今シーズンはまだ2試合(1回1/3)しか投げていませんが、いつ出番がきてもいいように準備だけはしています。群馬ダイヤモンドペガサスの富岡久貴投手(群馬・高崎工業高−東京ガス−西武−広島−西武−横浜−西武−楽天)や石川の南和彰投手(兵庫・神港学園高−福井工業大−巨人−カルガリーパイパース)など、同じNPB出身者の投手が投げている姿を見ていると刺激され、「自分もまだまだ現役として頑張らなくてはいけない」という気持ちになってきます。

 とはいえ、僕は指導者でもあります。コーチとして他の投手に実戦経験を積ませたいという思いもありますので、極力「自分が投げたい」という気持ちを抑えているのが現状です。

 プレーイングコーチとして難しいのは、コンディションやモチベーションを保つこともそうですが、何より選手の特徴や性格を把握しながら指導すること。正直、選手としてだけやってきた昨季までとは比べものにならないほどの疲労を感じています。しかし、日々の練習や試合で課題を克服し、レベルアップした選手の姿を見ると、やはり指導者としての生き甲斐を感じますね。

 今シーズンは指導者としての第一歩を踏み出した年でもあり、また現役としてNPBに復帰できるかどうかを見極める最後の年でもあります。温かい声援を送っていただいているファンの皆さんに、よりいい試合を見せられるよう選手たちとともに僕も精一杯頑張っていきたいと思います。


天野浩一(あまの・こういち)プロフィール>:福井ミラクルエレファンツプレーイングコーチ
1979年4月12日、香川県出身。高松東高、四国学院大を経て2002年、ドラフト10巡目で広島に入団。2年目には貴重な中継ぎとして49試合に登板した。06年オフに自由契約となり、翌年に四国アイランドリーグの香川オリーブガイナーズに入団。前期は先発、後期はリリーバーとして41試合に登板し、7勝6敗13セーブの好成績で最多セーブを獲得。リーグ優勝および石川とのチャンピオンシップでの優勝に大きく貢献した。今季より新規参入した福井のプレーイングコーチに就任した。

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