先日、都内のある中学校でお話をする機会をいただきました。

 テーマは「すべての人が好きなスポーツに関わる社会へ」。スポーツ推進を意味しているのではありません。年齢、性別、障がい、LGBTQ+、国籍……に関わらず、すべての人が自分のやりたいことにチャレンジできる社会を目指す、との気持ちを込めています。

 

 小・中学生にお話するのは、とても難しいといつも感じます。大人は一つの言葉でもその背景を察して、意味をくみ取ってくれますが、子どもにはそのことの成り立ち、社会や人との関わりを丁寧に説明しながら進める必要があります。準備に時間はかかりますが、大変勉強になります。

 

 何より、いただいた質問や感想は新鮮なものばかり。思いもしなかったことに気づかせてくれたり、想定外の質問を受け、窮した末に絞り出した答えは、我ながらいい話だったりすることもあります。

 お陰で、考えが変わったり、調べたことで新たな学びがあったり……。心が豊かになります。

 

 この日もそうでした。

 いろいろな人がスポーツをすることについて話しているうちに、ある生徒が「私は年をとりたくない」と言いました。

 すると、「私も」「僕も」と続きます。

 

「みんな、そう思いますか」と尋ねると、ある男子生徒が答えました。

「僕は年をとって、高齢者になりたいです。僕のおばあちゃんは87歳で、とっても元気です。おばあちゃんの同じくらいの年の人は、結構亡くなってしまったと、おばあちゃんが言っていました。高齢者になるってことは、病気やけがで亡くなるのではなく、僕のおばあちゃんのように、ずっと元気でいるってことだからです」

 

 他の生徒たちは、「ほ~」と頷いています。

「やっぱり私も高齢者になりたいです」とあちらこちらから聞こえてきました。

 

 珠玉の言葉をいただきました。

 私も高齢者を目指してまっしぐら、と姿勢を正したのも言うまでもありません。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。第1期スポーツ庁スポーツ審議会委員、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問を務めた。2022年10月、石川県成長戦略会議委員に就任。同11月に馳浩スペシャルアドバイザーに就いた。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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