オリンピックは4年に1度巡ってくる。オリンピックが近付くたびに思い出すのがソウル五輪競泳男子100メートル背泳ぎ決勝だ。

 下馬評を覆して優勝した鈴木大地は決勝直前になって作戦を変更した。予選通過タイムがトップのバーコフ(米国)より1秒39も遅かったからだ。つまり、これまでと同じことをしていたのでは勝ち目はないのである。

「作戦は?」
「言えるわけないでしょう」
NHKのインタビューに大地はぶっきらぼうに答えた。

 実は決勝レースの前、大地はコーチの鈴木陽二と激論を戦わせていた。
「大地、オレたちが狙っているのはただのメダルじゃない。金メダルだ。そうだな?」
「もちろんです」
「じゃあ21回のバサロを25回にしないか。そうすれば(バサロの距離が)5メートルは伸びる」
「いや、27回で行きましょう。ここまできたら勝負するしかないでしょう」

 この作戦は見事に的中した。100分の13秒差で大地はバーコフをかわし、夢にまで見た金メダルを胸に飾ってみせたのである。

 リスクをとる勇気、プレッシャーを喜びにかえる前向きな意志、そして用意周到な準備 ――彼は勝つべくして勝ったとも言える。


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