堂上が野球を諦めきれない理由――そこにはNPBを相手に互角に戦えているという自信がある。昨秋、アイランドリーグ選抜の一員として参加したフェニックスリーグ、堂上は東北楽天戦で2本の本塁打を放った。打った相手は青山浩二と一場靖弘。いずれも1軍で結果を残している投手だ。
「青山投手から打った1本目は左中間への完璧な当たりでした。一場投手からのホームランは完璧にとらえたわけではないんですが、うまく押し込めました」

 打席では左中間に鋭い打球を飛ばすことを意識している。ただ、カウントや状況、来たコースに応じて、広角に打ち返すことができる。そのバッティング技術はアイランドリーグではトップレベルだ。NPBとの対戦でも充分に通用することを堂上は証明した。

「強い打球を打てるという自分の特長が、アイランドリーグの2年間で、より確実にできるようになったと思います。ストライクを取りにきたカウント球や、ファーストストライクから積極的にスイングしてとらえられるようになりました」
 3年目を迎える今季も5月25日現在、全25試合に出場して、リーグトップの打率.341、4本塁打、打点も1位と1点差の22。まだ気は早いがリーグ初の3冠王が狙える位置にいる。

 劇的に成長した深沢(香川−巨人)

 これまでの数々のピッチャーのボールを受けてきた中で印象に残っているのは誰か。それを訊ねると、真っ先にソフトバンクの馬原孝浩、そして香川から巨人に入団した深沢和帆の名前をあげた。

 馬原とはアマチュア代表として大学時代、西武キャンプに参加した。当時から同じ九州共立大で1学年上の新垣渚(ソフトバンク)とともに大学球界屈指との評価を受けていた右腕だった。そのキャンプで、堂上は初めて馬原のボールを受けた。

「正直、別格でした。松坂さんより馬原のほうが印象が強かったですね。ストレートの伸びはもちろん、フォークの落ち、スライダーの曲がり――僕は捕るので、いっぱいいっぱいでしたから。今になって思うと、キャッチング技術もなくて、よく捕れたなと感心しますよ」
 馬原は翌年のドラフト、激しい争奪戦の末、自由獲得枠でソフトバンクに入団した。今年はケガで出遅れているものの、今やパ・リーグを代表するクローザーである。

 もうひとり、深沢のボールを初めて受けたのは、堂上が四国に来て直後のことだ。山梨のクラブチームからアイランドリーグにやってきた深沢の前年の成績は2勝4敗、防御率3.01。球は速いがコントロールが悪い。それが彼に対する評価だった。
「でも、ブルペンで彼のボールを受けるとものすごくいい。当時の香川のピッチャーでは一番良かった。“なんでオマエ、それで試合で投げられないんだ”と最初に声をかけたくらいでした」

 ブルペンでよくても試合で自分の思うボールが投げ込めない。悩める深沢に堂上はアドバイスを送った。
「まっすぐばっかり投げて力んでいる。カーブもチェンジアップもスライダーも使えるなら、そのボールを生かしながらストレートを磨けばいいんじゃないか?」

 もちろん実戦のリードでもそれを実践した。変化球を要求してカウントが取れるようになると、ストレートがより効果的に使えるようになった。結果が出て自信がつくと、140キロ台後半のストレートにもより磨きがかかった。
「彼は劇的に変わりましたよ」
 堂上の言葉通り、その年の深沢は香川のクローザーとして活躍し、防御率はリーグトップの1.01。複数球団のスカウトの目に留まり、秋のドラフトで巨人の指名を受けた。

 結果オーライではダメ

「責任を感じますよね。自分の出したサインで試合の結果が変わってしまう。プロなら、そのピッチャーの給料や人生にも直結しますからね」

 捕手というポジションについて堂上はこう語る。アマチュア時代は主にトーナメントの戦いだ。負けたら終わりの一発勝負ではたった1球が、チームの明暗を分けることがある。一方、アイランドリーグでは勝ち負けはもちろんのこと、その選手の長所を引き出さなくてはいけない。各自が上のレベルを目指して戦っている以上、スカウトに得意球をアピールさせるような配球が必要になる。
「リードで悩むことですか? 最近はそこまでないですけど、やっぱありますね。リードには正解がない。最終的には相手に打たれないこと、抑えることが大事ですから」

 特にアイランドリーグの投手には若手が多い。いくらリードしてもその通りにボールが来ないことがある。「結果オーライはダメだぞ」。堂上は試合中、試合後にかかわらず、ピッチャーに厳しい言葉をかける。

「逆球で抑えたって次には何もつながらないんですよ。マスクをとって“おい、違うぞ”ってすぐに言います。はっきり言わないと“抑えているのに何が悪いの? それでOKじゃん”と流してしまう選手が多いですから」
 リーグでたまたまいい結果を出しても、上のレベルで通用するピッチャーにはならない。まずは狙ったところに自分の最高のボールを投げること。それを打たれたら、自分に何が足りないかわかるだろう。堂上はそう考えている。

 堂上が理想とするのはマリナーズの城島健司だ。「守備もバッティングもすべての面でスゴイ」と憧れる。レッドソックスとの契約が実現すれば、メジャーも認めるナンバーワン捕手に一歩近づくことになる。メジャー昇格を果たせば、日本人捕手では城島以来2人目。そして、レッドソックスで松坂大輔、岡島秀樹とバッテリーを組めば、初の日本人バッテリーが誕生する。

「やっぱり僕は野球が好きなんですよ。活躍してお世話になった方にも恩返ししないといけない。だからあきらめるわけにはいかないんです」
 何度も閉ざされた夢への扉をもう一度ノックすべく、堂上はしっかりと四国の地で結果を残し続けている。一投一打でベストを尽くす彼のプレーを香川で見ておく価値は充分にある。

(おわり)

<堂上隼人(どううえ・はやと)プロフィール>
 1982年3月12日、神奈川県出身。右投右打で背番号は27。強肩と強打がウリの大型捕手。横浜商大時代には阪神・鳥谷敬、ソフトバンク・馬原孝浩らと日米大学野球の日本代表にも選ばれ、ドラフト候補にも挙がっていた。日産自動車を経て06年5月より香川オリーブガイナーズに途中入団。打率.327、11本塁打、45打点の成績で首位打者と本塁打の2冠に輝き、攻守にわたって後期V、チャンピオンシップ制覇に貢献した。07年も打率.322、7本塁打、50打点をマーク。2年連続の後期MVPと、独立リーグ・グランドチャンピオンシップ初代MVPに輝いた。現在、ボストン・レッドソックスと入団交渉中。





(石田洋之)
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