第164回 心育む110分間
放課後等デイサービスとは、厚生労働省が児童福祉法に基づいて制定した障害児支援サービスです。放課後や休日、サービス施設に通所し、自立支援と日常生活の充実のための活動を行うもの。各施設では、それぞれ工夫を凝らした遊び、交流などを実施しています。
「サッカー療育をメインとした成長支援」を標榜する「LEIF(リーフ)立川(東京都立川市)」を訪ねました。この施設はリーフラス株式会社が運営しています。
その日の天気は雨。室内での活動となりました。
小学校高学年を中心に10人の子どもたちが集合していました。主に発達障害の子どもたちです。
指導するのは田中秋彦先生。
満面の笑顔で、子どもたちに声をかけていました。みんなしっかり話を聞いています。先生のお話は愛にあふれていて優しい。しかも面白い。聞いている子どもたちを飽きさせないんだなあ。
はじめに、「今日のもくひょう! 自分のカラダをコントロールしよう!」
すごいことに、約110分の間、いろんな場面にこの目標を当てはめて指導していきます。
「心と身体はつながっています。心も自分でコントロールしよう」
「ボールも身体の一部、しっかりコントロールするぞ」
一気通貫で、目標を意識することが、自然と身体に沁みていきます。
サッカー療育とは、サッカーを通じて、発達障害を持つ子どもたちの成長をサポートすると。ここでは、サッカー上達を目的としていません。楽しく遊びながら、生活能力や社会性を向上させることを重要視しています。思いやり、継続する力が育つ場面が多くみられました。
「次は、リズム走」
「できなくてもいいよ。絶対にできなきゃいけないってことはない。でも諦めるのはもったいない」
「できなかったら、お友達に教えてって言えるもの大事」
「もう少しで、できそうな人の手助けをしてね」
適時的確にかけられる先生の声は、その場にいる子たちに、す~っと入っていく。子どもたちだけでなく、見学している私たち大人にも。
途中、機嫌が悪くなり、隅っこで座り込んでいる子がいました。
リーフラス株式会社の東京福祉事業支店長の松岡晋也(まつおか・しんや)さん(子どもたちにゴリラ先生と呼ばれています!)が、その子に近寄り、話しかけていました。
「大抵“なんでやらないの? 戻りなさい”と言われると思い、心がこわばってしまうんです。あの時は“今日のTシャツかっこいいね~。お水飲んできたら?”と促したんです」
その子どもは、水を飲みに行き、そのままみんなの輪に戻っていきました。
「何かが原因で気持ちが切れそうになっても“楽しみたい”という気持ちが勝っているから我慢できるんです。こういう経験が我慢する心を育てていくと思うんです。今日のみんな、3年前より本当に集中力がつきました」と松岡さん。そう話した時の表情は、今にも泣きだしそうな笑顔でした。
松岡さんがこう話を続けます。
「どんな子でも、だれでも来てほしい。以前、どこのクラブでも断られたという腕を切断した子が、ご両親と一緒に体験に来ました。終わってから、“どうぞどうぞ入会してください”と。だって、なんの問題もないんですもん。すると私の目の前で“いいんですか?”とご両親が号泣。私ももらい泣きですわ」
「こんなこともありました。ある男子が3カ月で退会したい、と。元気にやっているように見えたので、不思議に思いました。彼はこれまで学校でいじめにあっていて、好きなサッカーの仲間に入れてもらえなかったので、ここに来ました。でも、ここで3カ月やって自信がついたのか、学校に戻ってみんなとサッカーができるようになったんです。“リーフさんのお陰です”と。喜んで退会してもらいました」
110分もあっという間に過ぎ、この日のプログラムの時間も終わりに近づいてきました。
「さあ、みんなで片づけて、ご挨拶。おうちに帰ろう!忘れ物はないかな?」と田中先生が声をかけます。
「どきっ」実は私は子どもの頃、本当に忘れ物の多い子でした。
「荷物は自分では帰れないから、持って帰ってね~」
こんなふうに言われたら、荷物が愛おしくてとても置き去りにできなくなりますね。田中先生の一言一句で、私の心も成長した日となりました。
リーフラス株式会社 LEIF事業
https://leifras.co.jp/service-social/leif/
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>