自ら立てた目標に対する強烈なこだわりと挑戦 ~木村敬一インタビュー~

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 2歳の時に先天性の網膜剥離で視力を失った競泳の木村敬一。これまで4大会連続でパラリンピックに出場し、2021年の東京大会では悲願の金メダルを獲得した。さらなる活躍が期待されるパリ大会を前に、当HP編集長・二宮清純がその胸の内を聞いた。

 

二宮清純: パリパラリンピックに向けて、昨年2月から星奈津美さんに指導を受けているそうですね。星さんは、女子200mバタフライで五輪2大会(ロンドンとリオデジャネイロ)連続銅メダルに輝いています。どういうきっかけで指導を?

木村敬一: 星さんとは同い年です。ロンドン大会で最初にメダルを取ったという共通点もあり、それまでイベントなどで一緒に登壇する機会がありました。東京大会後、彼女と技術的な話をしていたら、「プールの中で1度泳ぎを見てみたい」と言ってくれたので、アドバイスを求めました。

 

二宮: 星さんには、どんな指摘をされましたか。

木村: 泳いでいる姿勢が悪いというのが、最初の指摘でした。泳ぐにあたっては体が水平の状態がいいのですが、私の場合、腰が反っているというのです。

 

二宮: 腰が反っていると、それだけ水の抵抗が大きくなるということでしょうか。

木村: そうです。腰が反るということは、背筋に対して腹筋の力が弱いわけで、それで泳ぎのバランスが崩れて推進力の妨げになってしまう。

 

二宮: そこで腹筋を強化したわけですか。

木村: 強化もそうですし、しっかりと自分の意志で力を入れられるように、水中だけでなく陸上でも腹筋に意識を持っていくようにしました。おかげで、姿勢の部分はだいぶ改善されたと思います。

 

二宮: キックもずいぶん変わったと聞きましたが……。

木村: キックについては、その時々で課題があるので常に変化していて、今も試行錯誤しつつやっている感じです。

 

二宮: パリ大会(8月28日開幕)まで3カ月を切りましたが、ゴールを100とすると現在のキックの完成度は?

木村: 8ぐらいだと思います。

 

二宮: ほう、8割まできましたか。

木村: いえ、ただの8です。

 

二宮: 100分の8ですか!? 本番に間に合いますか?

木村: 間に合わないかもしれません(苦笑)。というより、そもそも100をどこに置くのかということがあります。日々の練習の中で変化があって、「これができたらもっと上にいける」というものが生まれ、目標値が上がっていく。そうすると、目標と現状の差はなかなか埋まりません。その意味では、同じ8でも1年前の8と今の8は数字の重みが違うんです。当然、決められたゴール(パリ大会)は動かせませんから、どこかで「この辺かな」という落としどころを自分なりに見つけなければなりませんが……。

 

二宮: ベストは無理でも、ベターな完成度を目指すと。

木村: そうですね。もっとも、そろそろ改善してきたものを固めなければならないとは思っています。

 

二宮: これは星さんが言っていましたが、腕の使い方にも課題があったようですね。

木村: 腕をまっすぐ伸ばした状態で水をかいていたので、水中で手のひらが下の方を向いてしまい、水を十分に捉えられていなかったのです。私は極力遠いところから水をかいたほうがいいと思っていたので、腕を伸ばして遠くから水をかくようにしていましたが、そうではなくて肘は曲がっていてもいいので水を効率的に後ろにかけるよう腕を動かすことが重要なんだと分かりました。

 

二宮: 水を下にかくと上に推進力が向いてしまう。力学的な問題ですね。

木村: はい。それに自分の中心から遠いところは力を入れにくいのですが、近いほうが力を込めやすい。

 

二宮: 木村さんはパリ大会内定を決めたレース後、後半の伸びが良くない課題を口にされていました。それはスタミナの問題ですか、それともペース配分の問題?

木村: 両方です。私のもともとの泳ぎ方は、無理をして大きな力を出している感じなので、自分の持っている体力の中でしか勝負ができない面がありました。もう少し燃費のいい泳ぎ方ができれば、後半のバテを減らせると思っています。

 

二宮: 燃費のいい泳ぎとは、泳ぎの無駄をなくしていくということでしょうか。

木村: はい。新しいことができるようになることも大切ですが、余計な部分をパリまでにどのくらい減らせるかが重要で、そこに今取り組んでいるところです。

 

二宮: バタフライは奥が深いですね。

木村: 水泳はどの種目も奥が深く、言われてみれば確かにそうだなと思うことばかりです。恐らく目が見えている人たちは、何の疑問も持たずにそうしたことを身につけていくのでしょうが、私の場合はそういう当たり前のことがあまりにも欠落していたと感じます。

 

二宮: 健常者であれば自分の目で見て学ぶことができますが、視覚障害者は自分で経験して試行錯誤する以外にない。そのため他者からの的確な指摘が重要になってくる。そうした点を含め、星さんからのアドバイスは非常に貴重だったと?

木村: はい。まだまだ知らないことがたくさんあったなと気づきました。

 

(詳しいインタビューは6月1日発売の『第三文明』2024年7月号をぜひご覧ください)

 

木村敬一(きむら・けいいち)プロフィール>

1990年9月11日、滋賀県栗東市生まれ。先天性疾患による網膜剥離で2歳の時に視力を失い、10歳から母のすすめで水泳を始める。小学校卒業後、筑波大学附属盲学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)に入学。水泳部に入部し、競技に打ち込む。高等部在席中の2008年に北京パラリンピック出場。日本大学進学後の12年ロンドンパラリンピックでは開会式の旗手を務め、100m平泳ぎで銀メダル、100mバタフライで銅メダルを手にした。16年リオデジャネイロパラリンピックでは、50m自由形と100mバタフライで銀メダル、100m平泳ぎと100m自由形で銅メダルを獲得。18年4月から20年2月まで、アメリカを拠点にトレーニングを行う。21年東京パラリンピックでは、100m平泳ぎで銀メダル、100mバタフライで自身初となる金メダルを獲得した。東京ガス所属。

 

>>著書『壁を超えるマインドセット』発売中

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株式会社第三文明社

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月刊誌「第三文明」で2010年1月号より好評連載中の「対論×勝利学」は、 二宮清純が一流アスリートや指導者などを迎え、勝利への戦略や戦術について迫るものです。 現場の第一線で活躍する人々をゲストに招くこともあります。 当コーナーでは最新号の発売に先立ち、インタビューの中の“とっておきの話”をご紹介いたします。

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