現実主義者の私でも双手を挙げて賛成する気にはなれない。また問題が先送りされるだけだ。さて法務省は、どんな判断を下すのか。
 今に始まった話ではないが日本代表FWのゴール前の非力さは目を覆うばかりだ。

 南アW杯アジア地区予選ではホームのオマーン戦で大久保嘉人がゴールを決めて以来、338分もノーゴールの状態が続いている。実に約4試合分である。DFの闘莉王や中澤佑二が最前線に上がった時の方がまだ得点の雰囲気を感じさせるのだからFWの得点力欠乏症はいよいよもって重症だ。

 かつては分母(シュート数)を大きくすれば分子(得点)の問題は解決するだろうとの楽観的な見方があった。下手な鉄砲も数打ちゃ当たるというわけだ。それはあまりにも無邪気に過ぎた。高校サッカーならいざ知らず、代表レベルの試合になれば明確なシュートの意図と最前線での熟達のスキル、そして鬼気迫るようなゴールへの執念がなければ得点は生まれない。すなわち先の「分母拡大理論」は机上の空論であって地上の正論ではない。いわば書生論の類である。

 そこでにわかにクローズアップされてきた存在が国籍取得申請中のブラジル人FWジュニーニョ(川崎F)だ。早ければ8月にも結論が出るとか。ご同慶の至りといいたいところだが、冒頭で述べたようにとてもそんな気分にはなれない。彼の日本国籍取得に反対しているわけではない。FWの決定力不足を日本人の力で解決することなく、安易にブラジル人に頼ろうという、その心根が情けないのだ。言葉は悪いがこれじゃ“帰化ドーピング”ではないか。ラモス瑠偉や呂比須ワグナーは深くこの国を愛し、日本語も堪能だった。だから私も彼らの国籍取得を支持した。ジュニーニョのケースとは明らかに一線を画す。

 いやアジアにおいてもカタールのような例があるではないか、との反論もあるだろう。4年前、カタールは代表強化をはかるため、いきなりブラジル人選手3人に国籍を与えようとした。結局、FIFAに却下されたが、あれは何とも品のないやり方だった。

 日本のサッカーとは何か、日本人にしかできないサッカーとは何か。この崇高にして峻厳な命題に立ち向かうことを、この国はもうやめてしまうのか。日本人だけで点は取れないのか。割り切れない思いが残る。

<この原稿は08年6月25日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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