日本代表DF田中マルクス闘莉王は大した男だ。W杯アジア3次予選のタイ戦で、喉から手が出るほどほしかった先制ゴールを決めたからではない。仲間を思いやる、その熱いハートが素晴らしい。
「(大久保)嘉人はチームのためにやったこと。全然、悪くなんてない」
この一言で大久保はどれだけ救われただろう。
周知のように、大久保はタイ戦の7日前のオマーン戦(アウェー)で相手GKに蹴りを見舞い、一発退場をくらった。
「頭が真っ白になった」
そう言って大久保は悔やんだ。
退場後もスコアは動かず1−1で引き分けたからよかったものの、もし一発退場による人数不足が原因でオマーンに負けていたら、大久保は“超A級戦犯”になっていたことだろう。
それにしても、大久保の凝らえ性の無さは何とかならないものか。
スポニチ(6月8日付)に<大久保退場メモ>が掲載されていた。
03年11月15日市原(現千葉)戦
後半9分に味方選手が警告を受けた時、主審の背後から「金、もらってんだろ!」と怒鳴り、2枚目の警告で退場。03年は14枚のJリーグ最多警告。04年も15枚で2年連続のJリーグ最多警告を受けた。
03年12月10日韓国戦
タイトルの懸かった東アジア選手権で、前半13分にシミュレーションで2回目の警告を受けて退場。試合は0−0の引き分けで優勝を逃した。
05年12月11日オサスナ戦
マジョルカ時代には主審に暴言を吐いて退場。審判報告書には「大久保がバカ野郎とののしった」と記載されたが、本人は否定。
08年4月6日東京V戦
後半24分に空中戦の競り合いで、東京Vの土屋にひじ打ちをしたとみなされ、一発退場。通算9度目の退場処分で、松田直樹(横浜)と並んでJ1歴代2位となった。
今ではFIFAも大久保を“要注意人物”と見なしているようだ。
タイ戦の一発退場に対し、FIFAは3試合の出場停止処分と5000スイスフラン(約52万円)の罰金を課すことを明らかにした。
日本協会に届いた文章には「プレー中ではなく、著しい反スポーツ行為」との1文が記載されていたという。
本人は否定しているが、マジョルカ時代の「バカヤロー」は欧州の審判も敵に回してしまったようだ。
「おそらく大久保は“日本語だからわからないはず”と思って“バカヤロー”と口にしたのでしょう。外国、特にヨーロッパの審判は挑発的な発言にウルサイ。この言葉はわからないだろう、との態度は、もうそれ自体が侮辱ですよ。余計に“要注意人物”と見なされたんじゃないでしょうか」(元レフェリー)
大久保も、もう26歳だ。そろそろ大人になるべきだろう。いや、大人になりきれないから大久保なのか。
もしW杯最終予選の大事な場面で“悪いクセ”が顔を出したら……そう思うだけで冷や汗が出てくる。
そこへ闘莉王の冒頭の発言だ。繰り返し言うが、闘莉王は男である。
本音の部分では「嘉人よ、大人になってくれ」と思っているに違いない。しかし、それを口にすれば傷口にシオをすり込むようなものだ。大久保の居場所そのものがなくなってしまう。
絶妙のタイミングでの助け舟だ。大久保は心の中で「ありがとう」と手を合わせているのではないか。
これはサッカーに限らず言えることだが、うまくいっている時にはいろいろな人間が集まってくる。
ところが、失敗を犯すとシオが引くようにサーッと周りから人はいなくなる。
悪いのは自分だとわかっている。穴があったら入りたい。そんな時にもっともらしい“正論”を吐かれることほど辛いことはない。
ウソでもいいから「オレはキミの味方だ」と言って欲しい。正論を吐く百人の賢者より、たったひとりでもいいから、自らを弁護してくれる味方が欲しいものだ。
岡田ジャパンのキャプテンは中澤祐二である。司令塔は中村俊輔だ。彼らがチームの中心軸であることは言を俟たない。
では闘莉王は?私の目には弱きを助け強きをくじく「番長」のように映る。
ラモスが典型だが、ブラジルからやってきた男は情に厚く義理を重んじる。ある意味、日本人よりも日本人らしい。この国には闘莉王がいる。
(この原稿は『週刊漫画ゴラク』08年7月18日号に掲載されました)
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