いよいよ北京五輪まであと10日となりました。4年前のアテネ五輪では1964年の東京五輪と同じ16個もの金メダルを獲得した日本。今回はどのようなドラマを見せてくれるのでしょうか。選手たちには皆、悔いのないように頑張ってきてもらいたいですね。
 なかでも、野球とソフトボールは2012年のロンドン五輪では行なわれないため、現段階では北京が最後とされています。それだけに、ぜひ悲願の金メダルを獲得して欲しいと思います。
 その野球日本代表の最終メンバーが17日に発表されました。いろいろな意見が飛び交いましたが、私としてはほぼ予想通りのメンバー構成でしたし、今考え得る最高の24名だと思います。このメンバーでなんとか金メダルを獲ってもらいたい。そう願うばかりです。

 最も注目されたのが、上原浩治(巨人)が代表に選ばれるのか否か、ということでした。確かに今の上原は外目から見ても、本来のダイナミックさがなく、完璧な状態であるとは言えません。成績も24日現在、17試合に登板して2勝4敗、防御率5.82。数字だけを見れば、代表に選ばれたことを疑問に感じた人もいたでしょう。

 上原はもともとパワーよりもコントロールとキレで勝負するタイプのピッチャーです。ところが足の状態が気になるのか、軸足に体重が乗り切れておらず、上体が高くなっています。そのため、ボールに角度がつかないばかりか、腕もしっかりと振れていませんので、キレもなく、ボールが高めに浮いてしまうのです。おそらくバッターは今までのようなボールの勢いをほとんど感じていないことでしょう。

 では、なぜ星野監督は上原を選んだのでしょうか。それは五輪期間中に調子を上げてくれるのではないかという期待があるのだと思います。8日間で7試合ある予選期間中に上原が調子を取り戻し、本当の勝負である決勝リーグで彼本来のピッチングをしてくれれば……星野監督はそう青写真を描いているのではないでしょうか。

 そして、上原は人一倍責任感の強い選手ですし、国際経験が豊富ですから他の選手にとっては勇気をもたらせてくれる力強い存在です。確かにダルビッシュ有(北海道日本ハム)、藤川球児(阪神)といった球界を代表する投手が顔を揃えています。しかし、能力の高さと国際経験は別もの。普段、チームでいいピッチングを見せているピッチャーだからといって、五輪のような国際舞台でも活躍できるかというと、そうとばかりは言えません。やはり、上原のような経験者がチームには不可欠なのです。

 さて、予選の初戦ではアテネで金メダルを獲得したキューバーと対戦します。不安視する声もありますが、僕は日本にとってプラスに働くのではないかと思っています。2年前のワールド・ベースボール・クラシックを見てもそうですが、慣れない国際試合では相手の出方をさぐりながらやっていると大事なところで足元をすくわれてしまいます。始めから戦闘モード全開でいかなければ頂点に立つことはできないのです。
 特に初戦は格下が相手では、どうしても様子を見てしまいがちですが、キューバとなればそうはいきません。日本はいい緊張感をもって戦いに入ることができるでしょう。

 多くの人が星野ジャパンには金メダルを期待しています。もちろん、僕もその一人です。それは、日本のみならず国際的な視点から見ても重要だと思っているからです。先述したようにロンドン五輪では野球は行なわれません。復活させるためには、やはり野球の最も主要国である米国の力が必要です。

 今回、北京で日本が世界一になれば、米国はWBC、五輪と2度も続けて世界一の称号を日本に奪われることになります。野球の本場である米国にとって、これほど屈辱的なことはありません。そうなれば、本気で世界一の座を奪い取りにこざるを得なくなるでしょう。日本を打ち負かすための舞台に、五輪は不可欠。米国でも必然的に五輪での野球復活を唱える声が広がるはずです。

 さぁ、果たして星野ジャパンはどんな戦いを見せてくれるのでしょうか。1カ月後、彼らが凱旋帰国してくれることを心待ちにしたいと思います。


佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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