プロ野球も佳境に入り、セ・パ両リーグともにクライマックスシリーズ出場をかけて熾烈な争いが繰り広げられています。しかも、今季は後半に入って長年Bクラスだったチームがグングンと順位を上げ、大混戦に。特に3位争いは最後まで目を離せそうにありませんね。
 なかでも、躍進ぶりが目立っているのが25日現在リーグ2位のオリックスです。90年代はイチロー(マリナーズ)や田口壮(フィリーズ)など若手選手の活躍もあって、毎年優勝争いを演じるほどの強さを誇っていたオリックスでしたが、2000年以降は8年連続でBクラス。そのうち4回は最下位と長期に渡って低迷が続いていました。

 今季は開幕直後は3勝1敗と好スタートを切ったものの、それ以降は連敗が度重なり5月の時点で最下位が濃厚とされていました。挙句の果てには5月21日にはテリー・コリンズ監督が突然の辞任を発表してしまったのですから、現在のオリックスを想像していた人は少なかったでしょうね。

 しかし、僕はオリックスの浮上は決して意外ではありませんでした。というのも、僕は開幕前、パ・リーグの順位を1位・福岡ソフトバンク、2位・オリックス、3位・埼玉西武と予想していたからです。加えて今季のパ・リーグは混戦が予想され、どこが優勝してもおかしくないと言われていましたから、1つのきっかけでポンと下位のチームが浮上することがあるのではないかと考えていたのです。

 オリックスの場合は、それが監督交代でした。とはいえ、コリンズ前監督が決して不能な監督だったとは思いません。メジャーリーグでも立派な成績を残していますし、僕が開幕前にオリックスを2位に予想したのもコリンズ前監督が若手にチャンスを与える指揮官だったからです。

 しかし、コリンズ前監督と選手との間には大きな溝があったようです。3年ぶりの最下位に終わった昨季、選手からは監督やコーチとのコミュニケーション不足への不満の声が上がっていました。選手が話をしに行こうとしても、コリンズ前監督は全く聞く耳を持たなかったようです。選手というのは、監督がどんなふうに自分を理解してくれているのかを知りたいものです。そこで誤解があれば、互いに話し合うことも必要となってきます。

 ところが、そういったコミュニケーションを取れず、自分たちの意見を聞いてもらえなかった選手たちは、自分たちも監督がどんな狙いでどんなことをしようとしているのかを理解しようとはしなかったのでしょう。いつしか双方には分厚い壁ができてしまい、その壁は今季に入っても取っ払うことはできていなかったのです。

 その点、コリンズの後を引き継ぎ、代行から正式に監督となった大石大二郎さんは選手とのコミュニケーションを非常に大事にする方です。それは現役時代からそうでした。僕は近鉄時代、大石さんには大変お世話になりました。ピンチになると、いつもセカンドから声をかけてくれましたし、大石さんが後ろにいるだけですごく安心感があったものです。

 間違ったことは間違っているとはっきり言ってくれるところも、すごく頼りになりましたね。僕も含めて若い選手が調子に乗っている時には適格なアドバイスをくれ、正しい方向に導いてくれました。そして、普段は誰とでもわけ隔てなく一緒に楽しんでくれる。一目置いた“カリスマ”というよりも、身近な兄貴的存在だったのです。

 指導者となった今でも、全く変わりませんね。試合後のコメントを聞いていると、選手をよく褒めますし、失敗しても選手に責任転嫁することはありません。選手にとってはすごくやりやすい環境になったでしょうし、監督への信頼感が増したことでしょう。

 また、大石さんがコリンズ前監督とは全く異なる采配をしていないことも浮上の理由の一つになったと思います。首脳陣が新体制となっても、投打の布陣をほとんどかえることはありませんでした。結果を出すことができずにいた選手たちに再びチャンスを与えたことで、選手たちもこれまで大石さんが自分たちをちゃんと見てくれていたことを感じ取ったことでしょう。それが自信となり、実力を発揮できるようになったのだと思います。

 このままいけば2位でクライマックスに出場する可能性が高いわけですが、僕は1位よりも逆に2位で通過した方がオリックスにとってはプラスに出るのではないかと思っています。なぜなら1位は第2ステージまで間が空いてしまいますが、2位であればシーズンの勢いのまますぐに試合に入れるからです。

 クライマックスでも打線が力を発揮できれば、11年ぶりの日本シリーズ出場も夢ではありません。果たして、オリックスの勢いはどこまで続くのでしょうか。今後も非常に楽しみです。

 
佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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