第165回 体育館が注意書きだらけになる前に

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 ある車いすバスケットボールのチームの話です。固定の練習場がなかなか見つからず、やっと予約できた体育館。

「さあ、練習開始!」とテンションが上がっていました。すると、体育館の管理者が現れ、こう言いました。

「みなさ~ん。練習前に聞いてください。傷つかないように十分に注意を払ってください。絶対に転倒しないようにお願いします。万が一、転倒があったら、直ちに練習を中止し、事務所までお知らせください。では、事故・怪我のないように、気をつけて使用してください」

 全員、テンション下がります。絶対、転倒しますから。

 

「アリーナへのスリッパでのご入場は固くお断りします。廊下や会議室ではスリッパはご利用いただけます」

「館内で出たゴミは、必ずお持ち帰りください。ゴミを残した場合、回収に来ていただく場合がございます」

「水分補給のための容器は、必ずふたのあるものをご利用ください」

「館内(アリーナ・ロビー・廊下を含む)は、お子さんだけでのご利用はできません。必ず保護者が付き添ってください」

 

 体育館の利用について、これまで何度か本欄でも掲載してきました。主に体育館も、もっと車いすスポーツの使用や、床が傷つくことに寛容に。「傷ついて、汚れてこそ体育館」といった内容です。

 

 すると、いろいろな場面で見つけた張り紙、エピソードをたくさんいただくようになりました。そこまで? と驚いた例を挙げたものです。

 

 なんだか窮屈だな~と感じる一方で、管理者の方の思いも伝わってきます。過去に利用者から受けたひどい傷、苦しい思い。場面ごとに困って、悩んで、相談して、そしてつらい思いの中、苦肉の策で注意喚起の張り紙をしてきたのだろうと。

 

 きっと、アリーナには、車いすによると見られる目に余る傷があり、その利用者から申告も謝罪もなかったのでしょう。どうやったら床にこんな傷が? いろいろ考えた末、スリッパが犯人となったのかもしれません。目を覆いたくなるようなゴミが放置されていたこと……。水分補給のための飲料がアリーナにこぼされ、清掃もせずにそのままにした人たち。子どもたちが危険な遊び方をしていたのを、野放しにしていた保護者。

 

 日頃、体育館を利用している選手やチームの方に聞いてみると、こういった注意書きは全国的にどんどん増えているとのこと。自分たちが歓迎されていない、追いやられるように感じる、と。

これでは、利用者と管理者の間の隔たりが、広がっていくのではと危惧せずにはいられません。

 

 傷つけたなら、正直に謝る。汚したなら、清掃をし、それでも跡が残るなら申告する。純粋に遊んだり、スポーツをしたりする以外で、施設を損なう行動は慎む。明かに匂う、腐敗するゴミは持ち帰る。過度の悪ふざけは避ける。

 こういった当たり前のことができないから、管理者は悲しい思いで利用ルールを増やすのです。そしてきつくなる一方の禁止事項を利用者が見て聞いて、疎外感を強める。

 悪循環に陥っているのは火を見るより明らかです。

 

「床が傷つけられるから」という理由で車いすスポーツは貸してもらえない。これは現存する事実でもあり、そちらにばかり目がいっていたように思います。では利用する側が本当に真摯に体育館と向き合っているのか、大切にしようという思いがあるのか。館内が不愉快な張り紙だらけになる前に、お互いを慮る気持ちが必要なのではないか、と考えずにはいられません。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。2024年、リーフラス株式会社社外取締役に就任。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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