カルロス・サラテといえば「KOアーティスト」の異名を欲しいままにしたバンタム級史上に残るハードヒッターである。そのサラテからWBC世界バンタム級王座を奪ったのがルペ・ピントールである。

 1980年6月11日、同級3位の村田英次郎はピントールに挑戦する。無謀な挑戦との声も聞かれた。ピントールは2度目の防衛戦ではあったが、この試合が48戦目という豊富なキャリアの持ち主。村田の手に負える相手ではなかった。

 だが、序盤から村田は勇敢だった。小気味いいジャブ、ワンツーを主体にペースを握り、接近戦では何度も得意の右クロスを見舞った。中盤に入り一進一退の攻防になったが、村田は強打者相手に互角の打撃戦を展開した。

 13、14ラウンドはピントールに奪われた。重いボディーブローをくって動きが鈍った。村田も必死ならピントールも必死だ。殴り殴られの末に15ラウンド終了のゴングが鳴った。

 結果はドロー。村田は後に10連続防衛を達成するジェフ・チャンドラーとも引き分けている。引退後、彼は私にこう言った。「いくら自分が強くても、その時のチャンピオンがそれ以上に強かったら永遠にチャンピオンにはなれない。それがボクシングというものですよ」

 世界戦で2度のドロー。挑戦者にとってドローは負けに等しい。村田英次郎が「悲運のボクサー」と呼ばれる所以である。


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