氷艶hyoen2024-十字星のキセキ-が8日、神奈川県内の横浜アリーナで開幕した。出演するのは、高橋大輔と村元哉中の“かなだい”、荒川静香、友野一希、島田高志郎らのスケーターと、大野拓朗、エハラマサヒロ、長谷川開、エリアンナ、まりゑといったミュージカルなどで活躍する俳優陣だ。またスペシャルゲストアーティストとしてフォークデュオ「ゆず」が登場し、新曲であり同公演の主題歌となっている「十字星」を披露した。ゆずの楽曲は劇中にも使用されている。演出原案・宮本亜門、演出統括・尾上菊之丞、脚本は坂口理子。同公演は6月11日まで同アリーナで行なわれる。初日の観客数は未公表だった。

 

「氷艶」という造語には、<フィギュアスケートの氷上ならではの美しくしなやかな演技と感情表現を通じて、今までにない様な、日本文化を伝える艶やかな舞台を創っていきたいという想いが込められている。>(氷艶2024公式サイトより)

 

 十字星のキセキは、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をもとにしたストーリーだ。劇中では、宮沢賢治自身や彼の作品へのリスペクトを感じさせる描写がある。これらを照らし合わせながら観劇するのも面白いだろう。

 

 この氷上の物語はカケル(高橋)、トキオ(大野)、ユキ(村元)、老婆(まりゑ)、富豪夫人(荒川)らが中心となり、展開される。

 

 宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」は中学校の授業風景、星の授業から始まる。十字星のキセキも授業風景から始まるのだが、これはトキオ(大野)による過去の回想であった――。

 

 このアイスショーの中にリンゴ(苹果)が度々出てくる。宮沢賢治の作品ではリンゴ(苹果)は聖なる食べ物として扱われている。十字星のキセキでもリンゴ(苹果)がきっかけで話が展開していくシーンがある。この赤い果実の転がる行く末に注目しておいて、損はないだろう。

 

 鳥捕り(鳥を捕る人)が登場するのだが、宮沢賢治作品の鳥捕りと若干、テイストが異なる。これは現代風のアレンジだろうか。仏教では、食べるために殺生する者を罪深いとして、仏教者は彼ら(鳥捕りなど)との交際を禁じられることがあったという。しかし、宮沢賢治は生きるためにやむを得ず殺生する者に、優しいまなざしを送っていたとされる。

 

 このアイスショーでは、カケルが老婆からもらった"聖なる食べ物"を鳥捕りにあげる描写が出てくる。宮沢賢治と彼の作品へのリスペクトを表現しているように映った。

 

「銀河鉄道の夜」には蝎(サソリ)が出てくる。列車の中、登場人物同士でサソリの話になる。「サソリはいい虫だ」「いい虫じゃない」という具合に。本の中では、バルドラの野原に生きるサソリは、小さな虫などを殺し、食べ、生きていた。ある日、そのサソリはイタチに食べられそうになり一生懸命、逃げた。逃走中に井戸の中に落ちてしまい、溺れてしまったのだ。その時、サソリはこう祈った。

 

<ああ、わたしはいままでいくつのものの命をとったかわからない、そしてその私こんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた。それでもとうとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。どうしてわたしはわたしのからだをだまっていたちに呉(く)れてやらなかったろう。そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神さま。私の心をごらん下さい。こんなにむなしく命をすてずどうかこの次にはまことのみんなの幸(しあわせ)のために私のからだをおつかい下さい>(宮沢賢治著・「銀河鉄道の夜」角川文庫 変換など原文ママ)

 

 話を今回の十字星のキセキに戻そう。ここでカギを握るのが、荒川静香演じる“富豪夫人”である。最初に登場する彼女と、サソリ座の女王のもとで舞う彼女の身の振り方の“違い”から目を離すべきではないだろう。

 

 上に記した以外にもたくさんの「伏線と回収」がある。各々で「銀河鉄道の夜」を脳裏によぎらせながら観るのも面白いだろう。照らし合わせをせずとも、スケーター、俳優、アーティストが枠を超えてひとつの物語を表現するこの舞台は必見の価値がある。

 

 初日まで20日間を切った段階で急遽、トキオの代役を引き受け、堂々と氷上で演じる大野のプロ意識の高さは、特筆せずにはいられない。

 

 氷艶hyoen2024-十字星のキセキ-は6月9日、10日、11日と横浜アリーナで行なわれる。11日の千穐楽はCS日テレプラスにて16時から生中継される。

 

(文/大木雄貴)