今や陸上の日本代表に名を連ねるほどになった三浦愛華だが、競技を本格的に始めたのは意外にも地元の奈良市立若草中学に入学してからだった。なぜ陸上だったかについては、三浦自身はこう説明する。

「チーム競技よりも個人競技が自分には合っていると思ったんです。小学生の時はちょっと足が速かったので、中学に入って“やってみよう”と」

 

 幼少期は男子にも混じってドッジボールや鬼ごっこをする活発な女の子だった。「外で遊ぶのは好きでした」と本人。母・和美もそれに頷く。

「家の近所にある陸上競技場が遊び場でした。それでも18時になるときちんと帰ってきましたね。外遊びも好きでしたが、読書も好きなので、家ではよく本を読んでしました」

 

 さて三浦の言う「ちょっと足が速かった」とはどの程度のものだったのか。その点を母・和美に聞くと、こう答えが返ってきた。

「運動会では男の子が任されることの多いアンカーに愛華が選ばれていました。小学4年生時、担任の先生からは『陸上を教えてあげてください』と言われました。私も近所のクラブに連れて行ったこともありましたが、それよりも友達と遊びたいようでしたね。中学校に入学した時にも陸上を勧めました」

 

 本人も「小学生の時にクラブに“入ろうかな”と思ったことはありましたが、結局入るまでには至りませんでした」と言っていたように頭の片隅には陸上というものがあったのだろう。小学校を卒業し、若草中で「めちゃめちゃ軽い気持ち」(三浦)で陸上部に入部した。

 

 若草中はいわゆる陸上強豪校ではなく、三浦も「きつい練習をやった記憶もなく、毎日が楽しかった」と振り返る。母・和美は「勝ち負けにこだわらないような雰囲気でした。部員も少なかった。走り高跳びをしたり、四種競技をやったりと、いろいろな種目を経験していました。陸上の楽しさを若草中学で教えてもらったんだと思います」と証言する。

 

「毎年自己ベストは出していましたが、タイム的にはそんなに速くなかった」

 三浦本人がそう話したように中学3年間で、全国大会に出場するまでの実力はなかった。この頃のベストは三浦によれば12秒81。中学3年時には奈良県大会で優勝し、近畿大会に出場したものの、これも本人によれば実力者が出ていなかったことが理由だという。

「その当時はただ楽しく走っていました。近畿大会に出られるだけでラッキー。そんな感じでしたね」

 

恩師の目に留まった走りのバネ

 

 のちに奈良県立添上高校の陸上部顧問として、彼女を3年間指導する松井紀之は、この県大会で彼女の走りを初めて直に見たという。

「ランキング的には県で6番目くらいのタイムの選手でした。ただ一番ピョンピョン跳ねていた。走り方はまだまだ荒削りでしたが、バネがあった。私が選手を見る時、ポイントとしているのが、走りのバネなんです」

 

 松井にそのポテンシャルを見出され、添上から誘いを受けることになる。同校は男女含め計6度の全国高校総合体育大会(インターハイ)での総合優勝を経験している強豪だ。「私自身、陸上に詳しくなかったので、軽い気持ちで決めました」と三浦。スポーツ推薦での入学はないため、一般受験で合格し、添上の門を叩いた。

 

「私は添上が厳しいと聞いていたので、ついていけへんちゃうかなと思ったんです」と母・和美。指導した松井は、当時をこう振り返る。

「正直、1年生の時にはだいぶ怒りました。1年時はある意味、型にはめた指導法でしたね」

 

 母の心配は的中した。三浦が陸上を「辞めたい」と思ったのは、この頃だった。「入ってから“やばいところに来てしまった”と……練習もきつかった」。ただ楽しく走っていた若草中とは違い、添上では基礎体力向上のため、反復練習の繰り返し。走る距離が短かろうが、長かろうが最初の1歩目、序盤に気を抜いた走りを許さなかったという。

 

「練習を積み重ねるという習慣もなかった。体力的にきついという面もあったでしょうし、緩い動きをしてしまったりすることも……。“そこは外したらアカン”と何度も繰り返させたこともありました。あとは競技者として、応援される選手になって欲しかったので、挨拶や人間性については厳しく指導しました」(松井)

 現在、三浦が得意とするスタートは、この頃に磨かれたのかもしれない。

 

 しかし、三浦は厳しい練習の日々に「毎日辞めたいと思っていました」と述懐する。陸上を辞めたいと思ったのが添上ならば、競技において勝ち負けに一層こだわるようになったのも添上に入ってからだった――。

 

(第3回につづく)

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三浦愛華(みうら・まなか)プロフィール>

2002年2月14日、奈良県奈良市出身。中学生から陸上を始める。添上高校を経て園田学園女子大学に進んだ。2年時の3月には日本室内選手権女子60mで、7秒38のU20室内日本新記録をマークして優勝。3年時から日本グランプリの出雲陸上競技大会で、女子100m3連覇中。4年時にはワールドユニバーシティゲームズでは4×100mリレー日本代表に選出され、4位入賞に貢献した。今年5月の世界リレーで4×100mリレーの日本代表として出場した。100mの自己ベストは11秒45。憧れのアスリートはフィギュアスケートの浅田真央。身長158cm。

 

(文/杉浦泰介、写真/本人提供)

 

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