変わる景色と変わらないKD 〜D.LEAGUE〜

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 日本発のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」で2連覇を達成したKADOKAWA DREAMS(カドカワ ドリームズ)が15日、地元・神奈川県川崎市のとどろきアリーナでワンマンライブ『THE GREATEST SHOW』を開催した。同イベントにはDREAMS29人(Dリーガー契約選手16人、アバンセチーム7人、1.5軍6人)に加え、ユース40人、ジュニア23人が参加。バトル、ゲスト参加を含めると100人以上のダンサーがステージに上がった。

 

 揺らすアリーナーー。2024年6月9日、D.LEAGUEチャンピオンシップ(CS)。会場である東京都江東区にある東京ガーデンシアターに響き渡った歌詞には、DREAMSの6日後への想いが込められていた。

 

 6月15日、JR南武線・武蔵新城駅から徒歩3分、大手スーパーマーケットの向かいに立つビル2階にDREAMSの拠点「STUDIO KD」はある。私は小中学生の頃、この町に住んでいた。20年以上前のことである。スーパーはその当時もあった。だが立ち並ぶ店はずいぶん変わったように思う。住んでいた社宅はもうマンションに建て替えられており、通っていた小学校は小綺麗になっていた。スタジオに近付き、外からガラス張りの事務所を覗くと、ホワイトボードが立て掛けられていた。ボードにはダンサーの名前が記されており、CSに向けたものと思われるワードも躍っていた。いわば戦に向けた基地。だが、この日はもぬけの殻だった。それも当然である。戦いの場は、この基地から約1.9km離れたとどろきアリーナにあるからだ。

 

「STUDIO KD」と同じ川崎市中原区にある、とどろきアリーナは男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」の川崎ブレイブサンダースのホームアリーナとして知られる。アリーナ周辺の等々力緑地にはプロサッカーリーグの「Jリーグ」川崎フロンターレのホームスタジアムで、陸上の国際大会の開催実績もある等々力陸上競技場(UVANCEとどろきスタジアム)、女子ソフトボールリーグの「JD.LEAGUE」のプレーオフでも使用された等々力球場などが並ぶ。川崎市民、中原区民にとってはスポーツのスタジアム、アリーナが集う場所である。

 

 15時開演の10分前、会場の入口付近には長い行列ができていた。ショー、バトルを含め3部構成のイベント、まずはDREAMSのメンバーによるアートワークを披露した。トップバッターは川崎市出身のDaichiがアフリカンダンスで会場の熱気に火を付ける。ASUHA、syuichi、yamattchi、AIRA+Mizuho、Rion、HINATA.M、Sasya+JURIKA、ITTA、Aroha Imai、颯希の順に個性溢れる作品を披露した。DREAMSが得意とするHIPHOPを軸にしたショーではあるが、クール、ダーク、艶やかさ、スタイリッシュ、情熱的なダンス……。それぞれのアートワークにメンバーの個性がキラリと光った。


 2部は2on2バトル、チームバトルを開催した。2on2は20万円、チームは100万円の優勝賞金。2on2にはLIFULL ALT-RHYTHM(ライフル アルトリズム)のcarinとKarimペア、Dip BATTLES(ディップ バトルズ)のKENSEIとSHO、 Valuence INFINITIES(バリュエンス インフィニティーズ) のNAOKIとMASSAのほか、BATTLESのUMI、INFINITIESのTUKKI、SEPTENI RAPUTURES(セプテーニ ラプチャーズ)のYUYAとDリーガーが勢揃いした。DREAMSのメンバーもパフォーマンスをするダンサーをステージ上で見守りながら、スキルフルな技や見事な音ハメに反応していた。

 

 個のスキル、キャラクターが際立つバトルを制したのはALT-RHYTHMのcalinとKarimペア。calinは2on2バトル連覇(昨年はCHIHIROとのペア)となった。
「この間、CSを終えたばかりのチームがこれほどの規模感でこんなに人を集め、ワンマンライブをやっているって、本当にすごい。そこに誘ってもらってうれしく思います。年齢、ジャンル、場所に関係なく尊敬できるKADOKAWA DREAMSと一緒にDリーガーをやれていることがうれしい。24-25シーズンも、私もKarimもALT-RHYTHMも頑張っていこうと改めて思えました!」

 

 チームバトルでは各チームがハイレベルなコレオとフォーメーションを披露した。賞金100万円を獲得したのはKIRAKIRAKIREI。時にコミカルな表現も見せつつも、高いダンススキルで6チームの頂点に立った。バトルの合間にはSTUDIO KD Jr、KFD(ユース)がショーを見せる。バトルの部が終了すると、今季のD.LEAGUEでCSに出場し、レギュラーシーズン最終戦でDREAMSと好勝負を繰り広げたINFINITIESが登場。DREAMSと対戦した際の「フロムストリート」、CSで披露した「FLOOR PARTY」の作品で、らしさ全開のダンスで観客を沸かせた。

 メインイベントはDREAMSのショーである。バンドによる生演奏でライブ感を際立たせる。ケガをして踊ることができないITTAを中心にメンバーがMCを務め、観客とのコミュニケーションを図りながら、次の演目の時間を繋ぐ。SNSでリクエストの多かった今季のROUND.8の「I AM」、そして 初年度(20-21シーズン)のROUND.1の「SHINOBI」を踊った。幕間の映像とリンクさせた作品もあり、趣向を凝らしていた。アンコールには今季のCSファイナルで披露した「ONE」で応え、最後はメンバー1人1人が挨拶をした。3回目のワンマンライブ。過去2回は1000人規模のクラブやライブハウスで開催したが、3回目にして数千人規模のアリーナへとステージを広げた。MINAMIは「この景色を忘れずに、まだまだ行くぞー!」と詰め掛けた約2500人の観客に誓った。

 

 メンバーにとっても、ステージから見える景色は格別だったはずだ。終演後、喜びの声を聞いた。
「ダンサーでアリーナを埋められると思っていなかった。素直に超楽しかったです」(HINATA.M)
「まさかアリーナにKADOKAWA DREAMSで立てるとは夢みたい。本当に日本一のチームだと思っています」(TSY)
「こんなに大きな舞台で自分たちのワンマンライブを開催することができて、ダンサーが主役のイベントをつくることができて本当にうれしいです」(LENA)
「アリーナを埋められると思っていなくて、不安で緊張していました。今日のお客さんたちの笑顔を見れて安心した。素直に楽しめました」(ASUHA)

 

「まさかCSを優勝して6日後、アリーナに立たせていただけるとは。スケジュール的にパツパツでしたが、たくさんのスポンサーの皆さんが自分たちに協力してくださった。KADOKAWA DREAMSの仲間もいて、“自分たちは無敵だな”と改めて思いました」(JURIKA)
「私とメンバー数人が今回のワンマンライブの企画、運営の中心として携わりました。一生に一度あるかないかくらいのアリーナのワンマンを自分たちで一からつくり上げていく作業を経験し、こんなにたくさんの人の力を借りているんだな、と。たくさんの人のサポートを受け、たくさんの人の愛されるチームに成長できたと実感できました」(Rion)
「バックダンサーとしてドームやアリーナに立たせたいただいたことはありましたが、その時はバックダンサーなので自分よりもメインの歌手を観に来ていた。今日は自分たちが主役。アリーナでやることは自分としても夢だった。ダンサーの可能性が広がった日にもなったと思います」(MINAMI)

 

 MINAMIが言う「ダンサーの可能性が広がった」ことで、メンバーたちに更なる欲が出てきた。

「自分は川崎市出身なので、川崎が盛り上がることに繋がればうれしい。こうやって大きなところでできたことで、もっともっといろいろな人に見ていただきたいと思った。これからも頑張ります」(Daichi)
「自分たちが一からつくり上げてきたものを(アリーナに)立って実感できました。自分たちにこんなにも多くのファンがいて、見てくれる方がいることがめちゃくちゃ幸せだし、最高でした。このアリーナにとどまらず、これからも応援してもらえるような自分たちでありたいです」(Sasya)

 可能性を見出したという点では、KEITA TANAKAディレクターも同じかもしれない。終演後に話を聞くと「終わってみて予想していたものと違う感情が湧いてきました。もっと達成感があるかなと思ったんですが、メンバーのポテンシャルを考えたら、 まだまだ出力あるなと感じました」と答えた。

 

 2022年にDREAMSは拠点を川崎に移した。ワンマンライブ過去2回は東京都渋谷区で実施。3回目にして初の川崎開催となった。
「自分たちのホームタウンを持っているダンサーは、なかなかいない。これだけ地域の人に愛されているということ。今日はもちろんですが、今日に至るまでも町の中で応援の声がどんどん届くんですよ。それが彼ら彼女らを強くする。自分ひとりの力じゃ、たかが知れている。そこは段違いだと思います」(KEITA TANAKAディレクター)

 中原区に隣接する高津区出身のKEITA TANAKAディレクターは、中学1年でダンスを始めた。30年以上前のことである。武蔵新城のひとつ隣の駅である武蔵溝ノ口はダンスの聖地とも呼ばれている。
「僕が踊っていた頃は、まだ聖地と言われる前だった。自分がプロダンサーとしてキャリアを始める頃に呼ばれるようになりましたね。あの頃から町の変化も感じます。行政の方や企業の方もエネルギーに溢れ、ダンスに対しても理解があり、いろいろと動いてくれています」

 メンバーも町のダンスに対する熱量を感じ取っている。東京都出身のLENAが「すごく温かくて、常に自分たちを応援してくれている。みんなからパワーをいつももらっています。いつもお世話になっている皆さんと一緒に“川崎を世界に”という目標を達成できるように頑張りたいです」と言えば、北海道出身のJURIKAは「KADOKAWA DREAMSに入ってからイベントで小学校や消防署に行き、いろいろな方と触れ合う機会ができます。本当に皆さんは温かく迎え入れてくれて、応援してくださっている。恩返しがたくさんできるように、これからの活動を頑張っていきたいと思います」と続く。

 

 大阪府出身のRionと、神奈川県出身のSasyaはそれぞれの想いをこう述べた。
「結成して4年も経っていない中、川崎市がこんなにサポートしてくれているチームが他にいるのかなと思うくらい、今回のイベントを通して感じました。拠点を途中から川崎に移した中でも、私たちのことをこんなにも愛し、サポートしてくれて、応援してくれる川崎市。私たちが川崎から世界に飛び立って、恩返しをできる存在になっていかないといけないと感じました」(Rion)
「川崎の方はめっちゃ熱い。温かくて、とにかくエネルギッシュ。いつも自分たちのことを全力でサポートしてくれる。すごくパワーを感じているので、その川崎市に自分たちが少しでも力になれるように全力で頑張っていきたいと心からも思っています」(Sasya)

 

 川崎から世界へ――を合言葉に活動するDREAMS。ASUHAは「川崎はダンスが盛んな町。私たちが川崎を世界に発信していく」と意気込む。HINATA.Mはこう語った。
「自分はスポーツ(サッカー)をやっていたので、川崎にはフロンターレやブレイブサンダースといった地域の人たちが一緒に盛り上がれるスポーツがある。ダンスは今までそうでなかったかもしれませんが、自分たちが憧れられる人になれれば川崎も盛り上がるし、日本が盛り上がる。そうすれば自分たちがダンス、音楽をやっている意味がある。もっと幅広く挑戦していきたいと思わせてくれる町だと思います」

 

 DREAMSは挑戦のチームである。昨季は優勝後、イギリスに渡り、ストリートダンスの世界大会に出場して3位入賞を果たした。D.LEAGUEのシーズン中も、挑戦の連続だった。来季に向けての話を聞くと、KEITA TANAKAディレクターは「もう2days取っちゃってますから」と笑う。
「もっと規模を拡大したワンマンライブを企画したいと思っています。D.LEAGUE3連覇を視野に入れつつ、日本人がなし得ていないタイトルを獲りにいきたい。ダンスに限らず、エンターテインメントの権威を。シルク・ドゥ・ソレイユに肩を並べるようなチームになりたいんです」

 

 HIPHOPというジャンルの特性もあるかもしれないが、DREAMSの作品は挑発的に映る。ショーケースにおけるダンサーたちの不敵な笑顔や怒気を含んだような険しい眼差しが、好戦的に見える部分もあるのだろう。常に挑戦し続けるとはいっても、己のポリシーは曲げない。シーズン中もMINAMIがDREAMSのパフォーマンスを「自分たちのHIPHOP」と度々口にしていた。今季D.LEAGUEのジャッジを務めたMADOKAがCSでDREAMSをこう評していたのが印象深い。

「勝つためのダンスをしていない。自分たちがカッコイイというものをオレらジャッジに押し付けてくれた。もうワガママだよ! それがカッコイイんだよ! チクショー!」

 

 MINAMIの言う「自分たちのHIPHOP」、そしてMADOKAが表現した“自分たちがカッコイイというものを押し付ける”という軸は一貫してブレていなかった。王座に立つことで見える景色も、見られ方も変わる。その一方で変わらぬスタイルがある。それがDREAMSの魅力であり、強さなのかもしれない。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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