神様、仏様、大黒様――。
 今から3年前のことなのに、もう随分昔のことのように感じられる。それだけサッカー日本代表を取り巻く環境は目まぐるしいスピードで動いているということだろう。

 2005年2月9日。
 埼玉スタジアム2002。
 ワールドカップドイツ大会アジア地区最終予選。
 初戦、日本対北朝鮮。

 先制点は司令塔・小笠原満男の右足によってもたらされた。前半4分、三都主アレサンドロがファウルで得たFKをゴール左隅に決めた。
「こりゃ幸先がいいな」
 ジーコ監督(当時)の後見人である川淵三郎キャプテン(当時)は、スタンドでホッと胸を撫で下ろした。

 しかし、皮肉なことに、この先制点が北朝鮮の選手たちの闘争心に火をつけてしまった。
 後半16分、右サイドでボールを奪った北朝鮮はリ・ハンジェ、キム・ヨンスらが短いパスをジグザグにつなぎ、最後は左サイドバックのナム・ソンチョルが左足でゴール左隅に強烈なシュートを叩き込んだ。目の覚めるような速攻だった。これで試合は振り出しに戻った。

 ホームでの引き分けは負けに等しい。スタジアムの時計の針は、後半45分を過ぎた。後半途中から出場した高原直泰が左サイドでボールをキープし、遠藤保仁、加地亮とつないだ。右サイドにポジションをとっていた小笠原がクロスを放り込んだ。

 ゴール前には青いユニホームが3枚揃っていた。お膳立てはできていた。だが無情にもクロスは流れ、GKシム・スンチョルの正面へ。
 あろうことか、ここでGKが痛恨の判断ミスを犯す。キャッチすればいいものをパンチングで逃れようとしたのだ。そのボールを福西崇史が目の前のストライカーに素早くつないだ。背番号31。大黒将志、後半34分にジーコがピッチに送り出した日本代表の切り札だ。

 次の瞬間、野生の香りを漂わせるストライカーは鋭く反応し、ダイレクトで左足を振り抜いた。バウンドしたシュートはGKの左わきを抜け、ゴールネットに吸い込まれていった。まるでシナリオでもあるかのようなドラマチックな幕切れだった。それは「大黒様」が「神様」を救った瞬間でもあった。


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