ラスベガスの太陽は容赦というものを知らない。強い西日のなかに数十分も身を置いていると、体のなかの血液が沸騰していっているような錯覚にとらわれる。

 1989年6月12日もそんな日だった。

 シュガー・レイ・レナード対トーマス・“ヒットマン”・ハーンズ――。試合には「THE WAR」とのタイトルが付けられた。

 80年代のボクシングシーンを代表する2人のスーパースターの対決が最初に実現したのは1981年9月。この時はレナードがTKOで勝利している。ハーンズは試合後「ストップが早過ぎた」とレフェリーを批判した。

「8年間、ずっとこの日が来るのを待っていた」。ハーンズは言った。この試合に賭ける思いはレナードよりもハーンズの方が強かったかもしれない。

 一進一退の攻防が続いた。5ラウンド、レナードの左のショートフックをアゴにくったハーンズは足をふらつかせてロープに逃れた。ハーンズはクリンチで必死で窮地から脱出した。

 11ラウンドはハーンズがとった。2分過ぎ、右の長槍のようなストレートを立て続けに3発見舞うと、レナードは前のめりに倒れ、キャンバスの上でヒザを折った。

 試合はドロー。試合後、レナードが「偉大なファイターと闘えたことを誇りに思うよ」とライバルにエールを贈ると、ハーンズは「このとおり足もアゴも大丈夫だぜ!」と言って記者会見用の机に左足を乗せてみせた。

 試合開始のゴングから2820秒。私の視線は痙攣しっ放しだった。


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