今週は伝統のヤンキースタジアムにとって最終週――。
 しかしこのメモリアルウィークにヤンキースがまさか消化ゲームを戦う羽目になるとは誰も想像できなかっただろう。過去13年連続でポストシーズンに駒を進めて来た常勝軍団が、今シーズンは久々にプレーオフを逸することがすでにほぼ確定的となってしまった。
 この「歴史的な失敗」の原因はいったいどこにあったのか。一般に最大の誤算として考えられている故障者続出(王建民、ホルヘ・ポサダ、松井秀喜ら)以外に、今回は筆者が考える3つの敗因を付け加えていきたい。
(写真:松井秀喜とヤンキースにとって余りにも厳しいシーズンがもうすぐ終わろうとしている)
・主力の高齢化
 このコラムではもう何度も指摘してきたが、2000年代に入って以降のヤンキースは盛りの過ぎた高額のベテラン強打者たちを買い漁る方向でチーム作りを進めてきた。守備力、機動力といった重要な要素を無視し続けたのが、豪快さを求める球団の哲学なのか、スター優先のビジネス的判断だったのかは分からない。
 そのやり方でもスラッガーたちが元気にバットを振っている限り、ある程度は上手くいく。層の厚さがものをいうシーズン中は勝ち切れる(緻密さが要求されるポストシーズンは別の話で、ヤンキースがプレーオフ早期敗退を繰り返した理由はそこにあるのだが)。しかしバットだけに頼った強引なやり方では、いつか強打者たちの力が衰えたときに取り返しがつかなくなる。

 そしてついに賞味期限が切れたのが、2008年だったのだ。
 今季のヤンキースタジアムのフィールドには、余りにも鈍重なジェイソン・ジアンビ、ジョニー・デーモン、ボビー・アブレイユ、松井秀喜といったベテランたちが敷き詰められていた。彼らは元々スピードも守備力もない選手たちで、さらに今季にはバットスイングのスピードまでが鈍ってしまった。
 そうなっても年棒が高額なだけにトレードでの引き取り手は見つからず、仕方なく起用し続ける以外になかった。年老いた元スラッガーたちは揃って空転を続け、フィールドでも極端な守備範囲の狭さを露呈した。そんな彼らの衰えこそが、ヤンキースの意外な低迷の最大の要因となったのである。
(写真:終盤の松井に関する話題は手術のことばかりとなってしまった)

・エース獲得見送りの判断
 昨オフ、球界最高の左腕ヨハン・サンタナがトレードマーケットに出てきた時に、ヤンキースは積極的に獲得には向かわなかった。煮え切らない形で若干の興味は示したものの、その気になればいつでもトレードをまとめられる位置にいながら、最終的には引き換えに要求されたフィル・ヒューズ、イアン・ケネディら若手投手をキープする方を選んだ。
 個人的には、自前のホープに賭けたヤンキースの決断が誤りだとは思わなかった。前項でも挙げた通りベテランを重視し過ぎた過去の戦略への反省もあっただろうし、昨季の時点でヒューズは将来のエース候補に相応しいポテンシャルを示していた。ただ……今季も終了に近づいて、数字はヤンキースの判断ミスを歴然と物語る――。

サンタナ         13勝7敗 防御率2.70
ヒューズ          0勝4敗 防御率7.96
ケネディ          0勝4敗 防御率8.17

 もちろんヒューズとケネディが今季の失敗を糧に将来、大きく飛躍する可能性は残されている。サンタナ獲得には長期契約が必要だったが(メッツは6年1億3750万ドルを与えた)、サイズに恵まれているわけではない左腕エースがどれだけ長持ちするかも未知数である。このトレードを敢行しなかったことへの真の審判が下されるのは、かなり後になってからなのだろう。

 ただ少なくとも現時点では、ヤンキースは判断ミスを指摘されても仕方ない。長年ヤングエースを求めてきたチームにとって29歳のサンタナは適した存在だったし、今後ヒューズがそのレベルまで成長できる保証はどこにもない。そして、もしサンタナがローテーションにいたら、今季のヤンキースがこれほどあっさりプレーオフ戦線から脱落することはまずあり得なかっただろうからだ。
(写真:今季のヤンキースタジアムのハイライトはオールスターゲーム開催のみ)

・カノーの伸び悩み
 ベテラン打者たちの失速の影に隠れてきたが、今季、最も期待を裏切った野手は実は25歳のロビンソン・カノー二塁手だった。
 過去2年連続で打率3割を打ち、今季は首位打者候補にすら挙げられながら、開幕直後から不振を続けた。フィールドでも無頓着な怠慢プレーを連発し、ジョー・ジラルディ監督を激怒させた。1年を通じ健康を保った数少ない主力であるカノーが、これまで通りに快打を飛ばし続けていれば、ヤンキースがこれほどの得点力不足に悩むことはなかったに違いない。

 そしてカノーの心身両面の不調の影に、「昨オフに与えられた4年3000万ドルの高額延長契約の影響」があるとはよく囁かれるセオリーである。
「スポーツイラストレイテッド」誌のジョン・ヘイマン氏は、「精神面で甘さが残るカノーには20代前半の時期に大金を与えるべきではなかった」というあるヤンキース主力選手の匿名コメントを紹介。そしてヘイマンはこうも語る。
「カノーは間違った仲間たちと付き合っている。そしてその緩んだプライベートがフィールド上での日々の怠慢に繋がっているのだろう」

 この意見の真偽は分からない。ただいずれにしても、デレク・ジーター、マリアーノ・リベラらにすらFA権を得るまで長期の高給を与えなかったヤンキースが、カノーには25歳の時点で高額の延長契約を与えた。直後にカノーは失速し、「A級戦犯」と呼ばれるまでに評価を急落させた。
 この一連の失墜の過程は、若手に負担と期待をかけ過ぎて失敗した今季のチームを象徴していると言えるのかもしれない。
(写真:新ヤンキースタジアムでの1年目は絶対必勝の重圧を背負ったものとなりそう)



杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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