念願の海外移籍を果たした福田は、2004年にパラグアイに降り立った。移籍先のグアラニは国内リーグの屈指の強豪クラブで、南米クラブ王者を決定するリベルタドーレス杯への出場権も持っていた。
 福田にとって、まず解決しなければいけない問題は言葉だった。「スペイン語で知っていた言葉はグラシアス(ありがとう)とオラ(こんにちは)くらいだった」という。最初に始めたことは、クラブの関係者に挨拶をすること。「もしかしたら、挨拶ばかりするおかしなヤツとおもわれていたかもしれない」というほど、誰にでも声をかけ意思疎通を図った。

「クラブに馴染むためのコミュニケーションを大切にしました。朝、顔を合わせたら『おはよう』としっかりと自分の言葉で伝える。そうすることで自分と相手にわだかまりがないことが確認できる。練習中も話しかけやすくなりますし、こちらからも要求ができるようになります。そういう環境を作りたかったんです」

 スペイン語を習得するために福田は積極的にチームメイトの輪の中に飛び込んでいった。パラグアイでは「テレレ」というマテ茶を大人数で回し飲みする習慣があるのだという。その際に、皆で椅子を持ち寄ってたわいもない話をする。そこに福田は日本から持参した辞書と文法の本を片手に携えながら、必ず身を置くことにしていた。「選手たちの会話が一番の教材になるし、チーム状況把握のためにも必要なこと」だったという。

「最初のうちはほとんど何を言っているのかわからないのですが、少しでも自分にわかる言葉があったら拾っていく。そこで少しでも口を開けば、相手は話を振ってくれるんです。毎日通訳なしでスペイン語を聞いていたので、この言葉がきたらこう返すというのが半年くらいでわかってきました。あとは自分で日々勉強ですね」

 徐々にクラブ内に溶け込んでいった福田はピッチ上で結果を残していく。デビュー2戦目、初めて先発出場を果たした試合で1得点を挙げた。そのゴールが決勝点となり、チームは1−0で勝利した。「この試合で本当の意味で周りから認められたのが大きかった。このゴールが無かったら、今の僕はなかったかもしれない」

 福田がこう語るのには理由がある。パラグアイリーグは外国人枠を設けておらず、国籍に関係なく自由競争でポジションを奪い合う。もちろん外国人だけでなく国内の有望選手も福田の後ろには大勢控えていたのだ。

「南米のリーグは選手の生産工場のようなもの。試合の中でいい動きをすれば他国のリーグに高く売られていくんです。リーグが選手を生み出す工場であるならば、試合は選手という商品を見定める品評会ですね」。結果を残せなければ自分の代わりはいくらでもいる。福田は危機感と緊張感を常に持ちながら、パラグアイリーグを戦っていたのだ。

 初ゴールを挙げた後も屈強な体を持つDF陣を相手にしながら、得点を積み重ねていく。徐々にチームの中心選手として認められていき、シーズン終了時にはリーグ戦10得点、リベルタドーレス杯1得点という結果を残し、チーム得点王となった。日本で鬱々と過ごしていた4年間とは全く異なり、充実した1年間を送ることができた。

 そんな福田の下にパラグアイ以外の国からオファーが届く。それはメキシコ2部のパチューカからだった。つまり、福田も“品評会”の中から選ばれ、メキシコ行きの切符を自らの手で掴んだのだ。

「南米の選手は皆、メキシコに憧れているんです。彼らからすると、メキシコは華やかな国というイメージがあるらしくて。もちろん年俸も高いし、1部の選手では2〜3億円貰っている選手もいます。毎週テレビ中継もあり、大変な盛り上がりをみせている。彼らからそんな話を聞いていると、僕もメキシコに行きたいという気持ちになりました。日本から直接行くのではなく、南米の舞台で認められてメキシコに行ったことは僕にとって大きな経験になりました」

 1シーズン戦ったパラグアイを離れ、新たな挑戦の地メキシコへの移籍することが決定した。“華やかな国”で福田を待っていたものは、日本では想像もできない“試練”だった。


福田健二(ふくだ・けんじ)プロフィール>
1977年愛媛県新居浜市出身。千葉・習志野高校から96年に名古屋グランパスに入団。アーセン・ベンゲル監督(当時)に見出され、FWとしての才能を一気に開花させる。チームの天皇杯獲得などに貢献し、日本代表候補にも選出。2001年にFC東京、03年にはベガルタ仙台に移籍し、04年から海外へ。3カ国6チームを渡り歩き、各クラブでFWの中心選手として活躍した。04、05、06年はシーズン10得点以上を記録し、南米からヨーロッパに渡った数少ない日本人FW。今年8月からはギリシャリーグ・2部のイオニコスに移籍した。福田健二選手ブログ「kenji fukuda BLOG」http://blog.kenji-fukuda.com/





(大山暁生)


<小学館『ビッグコミックオリジナル』11月5日号(今月20日発売)の二宮清純コラム「バイプレーヤー」にて福田選手のインタビュー記事が掲載されます。そちらもぜひご覧ください!>
◎バックナンバーはこちらから