第76回 新・金満クラブ

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 フィーゴ、ジダン、ロナウド、ベッカム……。2000年代前半、レアル・マドリードが世界中からスターをかき集め、「銀河系軍団」と呼ばれていたことは記憶に新しい。
 その再現を目指そうとするクラブがあらわれた。英プレミアリーグのマンチェスター・シティである。

 同じマンチェスターに本拠地を置くクラブといえば、有名なのは何といってもユナイテッドだ。時価総額1700億円は世界一。
 そのユナイテッドを札束の力で打ちのめそうというのだから穏やかな話ではない。

 マンチェスター・シティのオーナーはこの9月、タイ元首相のタクシン・チナワット氏から、アラブ首長国連邦の投資会社アブダビ・ユナイテッド・グループ総帥スライマン・アル・ファイム氏へと変わった。
 株式公開を認めているイングランドのプレミアリーグでは、外資によるクラブ買収は珍しい話ではない。
 現在、20あるプレミアリーグのクラブのうち、8つのクラブのオーナーは外国人だ。

 今回の買収劇がこれまでと大きく異なっているのは、新オーナーの資産規模だ。
 潤沢なオイルマネーを背景にして、不動産投資などで築き上げたその額、実に130兆円!
 いきなり130兆円! と聞いてもピーンとくる読者はいないだろう。頭の中で理解できるのは、せいぜい1万分の1の130億円あたりまでか。
 ちなみに08年度の日本の国家予算は81兆円。アル・ファイム氏は日本の国家予算約1年半分の資産をひとりで保有しているのである。
 これだけのカネがあれば、フットボールクラブの買収なんてデパートの宝石売り場で指輪のひとつを買うようなものだろう。使い道に困っているのではないか。

 これまでサッカー界における金満オーナーの代表といえば、プレミアリーグ・チェルシーを率いるロシアの石油王ロマン・アブラモビッチ氏だ。彼がクラブを買収して以降、プレミアリーグ2連覇、欧州チャンピオンズリーグベスト4進出3回など目覚ましい活躍をとげている。
 だが、さしものロシアの石油王も、資産規模を比較するとアル・ファイム氏の10分の1程度というのだから、開いた口がふさがらない。

 当然のようにアル・ファイム氏、クラブを買収するなり仕掛けてきた。
 オーナーに就任した挨拶がわりにレアル・マドリードからチェルシーへの移籍が確実視されていたブラジル人FWロビーニョをかっさらってしまったのだ。
 欧州移籍市場は来年1月に再開されるが、MFクリスチアーノ・ロナウド、FWディミタール・ベルバトフ(ともにマンチェスター・ユナイテッド)、MFカカ(ACミラン)、FWリオネル・メッシ(FCバルセロナ)、FWフェルナンド・トーレス(リバプール)、MFセスク・ファブレガス(アーセナル)ら欧州のスターたちが獲得リストに載っていると言われている。
 彼らのためにアル・ファイム氏が用意した移籍金は総額932億円。これはフットボールの世界における事実上の価格破壊である。
 参考までに述べると、過去最高の移籍金は01年のジダン(ユベントス→レアル・マドリード)の84億円といわれている。
 アル・ファイム氏がC・ロナウドに用意するとみられる移籍金はその3倍以上の260億円。ここまで札束を積み上げられると、もう誰も太刀打ちできまい。

 マンチェスター・シティが掲げる今季の目標はチャンピオンズリーグの出場権が得られるプレミアリーグの4位。つまり同リーグのビッグ4、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、アーセナル、リバプールの一角を崩す宣言をしたようなものだ。
 昨季のマンチェスター・シティの順位は9位。わかりやすく言えばカネで順位を買うということだ。
 アル・ファイム氏は今季1シーズンで欧州制覇への足がかりを築こうとしているのだ。

 しかし、そう事がうまく運ぶとも思えない。「銀河系軍団」ともてはやされたレアル・マドリードも、費用対効果という面では勝者になれなかった。
 カネはあるに越したことはないが、カネだけでタイトルは獲れない。それがサッカーというスポーツの懐の深いところである。
 アル・ファイム氏はそこに気付いているのだろうか。

(この原稿は『週刊ゴラク』08年10月24日号に掲載されました)
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