横浜を自由契約となった石井琢朗の広島入りが決まった。来季から赤ヘル軍団の一員として新球場でプレーする。38歳の経験と頭脳は、チームにとって大きな財産となるはずだ。

 石井といえば忘れられないのが1998年の西武との日本シリーズだ。横浜は1960年以来、38年ぶりのシリーズ出場。ペナントレースの勢いをそのままシリーズにつなげられるか、そこに注目が集まった。

 第1戦、横浜スタジアム。前日までの雨が人工芝を湿らせていた。石井は西武の先発・西口文也の2球目を、いきなり三塁前へ転がした。絶妙のセーフティバント。たたみかけるように2番・波留敏夫の3球目に二盗を決め、3番・鈴木尚典のライト前ヒットで先制のホームを駆け抜けた。

 この1点、単なる先制点以上の価値を持っていた。西口を崩し、横浜に勢いをもたらせると同時に、シリーズの流れをもたぐり寄せたのである。

 石井はシリーズが始まる3日前から最初の打席はセーフティバントをしようと決めていた。理由は2つあった。ひとつは濡れた人工芝では打球が跳ねないこと。2つ目は西口のクセとして投げ終わった後、体がやや一塁側に傾くこと。石井はこう考えていた。
「転がしてしまいさえすれば、あとはヨーイドンの勝負だなと……」

 まさに乾坤一擲のセーフティバント。あれから10年、まだまだ老け込む齢ではない。


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