「男女共同参画社会基本法」が制定されたのは平成11年6月のことだ。その骨子として男女は「社会の対等な構成員」として「自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保」されなければならない、とうたわれている。附帯決議ではDVに対しても喫緊の課題として取り上げられ「あらゆる形態の女性に対する暴力の根絶に向けて積極的に取り組むこと」との一文が盛られている。

 基本的には大賛成なのだが、「ちょっと待てよ」と言いたくなるような事例もある。たとえば来年4月開幕の「関西独立リーグ」。11月に行われたドラフト会議で神奈川・川崎北高2年の吉田えり投手が神戸9クルーズから7巡目で指名された。試合に出場すれば男子のプロ野球選手に交じってプレーする初の女子プロ誕生ということになる。
 聞けば下手から綾取りの糸のように巧みにナックルボールを操るという。男子選手にどこまで通じるか見てみたい。成功すれば、まさしく水島新司の劇画「野球狂の詩」の主人公・水原勇気だ。

 しかし野球というスポーツはただ投げたり打ったりするだけではない。投手の場合、捕手が後逸した時は本塁のカバーに入らなければならない。本塁目がけて突進してくるランナーとのコンタクトプレーに小柄な女子選手が果たして耐えられるのか。乱闘の場合などは、居場所を見つけるだけでも大変である。もし運悪く乱闘に巻き込まれた場合、彼女はもちろんだが、男子選手にとってもそれは悲劇である。

 NPBはかつて女子選手を「不適格選手」に定めていた。ところが91年に野球協約83条?「医学上、男子でないもの」との文言を取り除いたことで、事実上、女子選手への門戸は開放された。まさか、そのテストケースとして「関西独立リーグ」が女子選手と契約したわけではあるまいが、もし吉田が不可抗力の事故に遭った場合、使用者側の責任は免れまい。「だから言わんこっちゃない」となるのは目に見えている。
 老婆心かもしれないが、女子選手を起用する時は慎重の上にも慎重を期して欲しい。男子に交じってやれる体力はあるのか、技術はあるのか。コンタクトプレーにも対応できるのか。見切り発車はあまりにも危険である。

<この原稿は08年12月17日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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