1994年5月2日(日本時間)の未明。熟睡していた中嶋悟は「何か嫌な予感を感じて」フッと目が覚めた。「とりあえずテレビでも見ようか……」

 テレビをつけた瞬間、中嶋の目にクラッシュシーンが飛び込んできた。「ガシャーンと壁にぶつかった音がして、びっくりして奥さんを起こしちゃったの。“これはヤバイぞ”って……」

 F1サンマリノ・グランプリ。イタリア、イモラ・サーキット。事故は7周目の超高速・左コーナー「タンブレロ」で起きた。トップを走るアイルトン・セナの車が時速300キロのトップスピードのまま、コンクリート・ウォールに激突し、マシンは大破した。

 意識不明のままセナはヘリコプターでボローニャ市内の病院に運ばれた。だが、手術できる状態にはなかった。頭蓋骨骨折で脳死状態に陥り、事故発生から約4時間後に還らぬ人となった。

 事故原因は定かではないが、パワーステアリング故障説やステアリングコラム・シャフト破損説が取り沙汰された。レース前にセナがタンブレロ・コーナーを改善するように要求していたことも、後に明らかになった。

 棺はブラジル国旗に包まれてサンパウロに搬送された。セナを見送るため、沿道は100万人を超える民衆で埋め尽くされた。日本でも深夜に追悼特番が組まれた。

「かっこいいままで消えちゃったな」
 中嶋悟はポツリと言った。


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